3人が本棚に入れています
本棚に追加
ゴールデンウィークが終わると、急に夏が近づいてきたように日差しも強くなった。
「ホタル、今日さ、久ぶりに僕んちに来ない? 見せたいものがあるんだ」
少し前までひんぱんに遊びに行っていたゲンジの家。
おもしろい少女マンガをゲンジに貸したり、逆に少年マンガを借りたりしてた。
お気に入りのゲームに熱中して、晩ごはんの時間も忘れる、なんてこともしょっちゅうだった。
でも……。
「ヒカルゲンジ」の言葉がクラスではやり出してから、ホタルはゲンジからさそわれても断ることが多くなった。
(ゲンジんち、行きたい。行きたいけど、でも)
ついさっき、ホタルは見てしまったのだ。図工室へ向かう廊下で、教科書から落ちたヒカルのプリントをひろって渡すゲンジの姿を。そしてその後も、2人並んでお喋りしながら歩く後ろ姿を。
「今日は忙しいから、行かない」
答えた声は、自分でもびっくりするくらい不機嫌そうで冷たかった。
あわててゲンジを見ると、
「……そっか。じゃあ、また今度」
片手を上げて、さっと立ち去って行ってしまった。
(ゲンジ……今、私、泣きそうな顔してた?)
それ以来、ゲンジと口をきくことがめっきり減ってしまった。
ホタルの心は、梅雨入りした最近の空模様とよく似ている。
全然お日様が照らない。
湿りがちだったホタルに、追い討ちをかけるようなことがあった。
トイレの個室にいると、クラスの女子らしき3人のおしゃべりが聞こえてきた。
「そういえば、最近『ゲンジボタル』っていわなくなったねえ」
ドア越しに心臓がはねるホタル。
「そりゃあ、『ヒカルゲンジ』には勝てないでしょう!」
「『ゲンジボタル』なんて、地味だもんね」
「そんなこと言ったら、ホタルちゃんが地味みたいでかわいそうじゃない」
ケラケラと騒がしい笑い声が遠くなっていく。
ホタルは個室から出て、手を洗う。そして、鏡をにらんでつぶやく。
「なんで私が地味ってことになるの?」
がしゃがしゃと手を洗ったせいで、シンクまわりには水しぶきが飛び散っていた。
最初のコメントを投稿しよう!