ゲンジボタルの卒業

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 ゴールデンウィークが終わると、急に夏が近づいてきたように日差しも強くなった。 「ホタル、今日さ、久ぶりに僕んちに来ない? 見せたいものがあるんだ」  少し前までひんぱんに遊びに行っていたゲンジの家。  おもしろい少女マンガをゲンジに貸したり、逆に少年マンガを借りたりしてた。  お気に入りのゲームに熱中して、晩ごはんの時間も忘れる、なんてこともしょっちゅうだった。  でも……。 「ヒカルゲンジ」の言葉がクラスではやり出してから、ホタルはゲンジからさそわれても断ることが多くなった。 (ゲンジんち、行きたい。行きたいけど、でも)  ついさっき、ホタルは見てしまったのだ。図工室へ向かう廊下で、教科書から落ちたヒカルのプリントをひろって渡すゲンジの姿を。そしてその後も、2人並んでお喋りしながら歩く後ろ姿を。 「今日は忙しいから、行かない」  答えた声は、自分でもびっくりするくらい不機嫌そうで冷たかった。  あわててゲンジを見ると、 「……そっか。じゃあ、また今度」  片手を上げて、さっと立ち去って行ってしまった。 (ゲンジ……今、私、泣きそうな顔してた?)  それ以来、ゲンジと口をきくことがめっきり減ってしまった。  ホタルの心は、梅雨入りした最近の空模様とよく似ている。  全然お日様が照らない。  湿りがちだったホタルに、追い討ちをかけるようなことがあった。  トイレの個室にいると、クラスの女子らしき3人のおしゃべりが聞こえてきた。 「そういえば、最近『ゲンジボタル』っていわなくなったねえ」  ドア越しに心臓がはねるホタル。 「そりゃあ、『ヒカルゲンジ』には勝てないでしょう!」 「『ゲンジボタル』なんて、地味だもんね」 「そんなこと言ったら、ホタルちゃんが地味みたいでかわいそうじゃない」  ケラケラと騒がしい笑い声が遠くなっていく。  ホタルは個室から出て、手を洗う。そして、鏡をにらんでつぶやく。 「なんで私が地味ってことになるの?」  がしゃがしゃと手を洗ったせいで、シンクまわりには水しぶきが飛び散っていた。
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