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「あれ?」
視界の端で何かが動いた気がして、ホタルが窓に目を向けると、小さな小さな一匹の虫がいた。
(てんとう虫?じゃないな。なんだろう…?)
そう考えていると、
「澄川ホタルさん」
自分の名前が呼ばれた。
ホタルは「はい!」と大きな声で返事をして席を立ち、歩いて壇上へ登る。そして、校長先生の前で一礼する。
「卒業証書、澄川ホタルさん…」
証書を手に持ち、自分の席に戻る時、再び窓の虫が視界に入った。
近づいて凝視してみる。と、
「蛍だ!」
思わず声が出てしまった。
それは三年前のことだった。
ホタルには、ゲンジという名前の仲良しの男の子がいた。
近所の同い年で、物ごころ付く前から、親に連れられてお互いの家で二人一緒に遊んでいたらしい。
幼稚園も、小学校に上がってからも一緒。
行きも帰りも、帰ってから遊ぶのも、二人は一緒だった。
ホタルもゲンジも一人っ子だったから、兄妹がいるみたいで嬉しかった。
「仲良いね」
「恋人同士だね」
周りの大人たちはいろいろな言葉をかけてきた。からかいではなく、微笑ましく見守る様子で。それくらい、二人は『お似合い』だったのだ。
『ゲンジとホタルで……ゲンジボタル!』
誰が呼んだか、いつの間にかそんなニックネームが二人に付けられていた。
「仲が良いのはいいけど、他のお友だちとも仲良くしなさい」
入学して少しの間は、先生も笑いながらそんな事を言っていたが、すぐに諦めたようだった。そのくらい、クラスで受け入れられている仲良しな『ゲンジボタル』だった。
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