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「宮下社長の愚息はTX+の上客でね。響君にご執心なのも知っていたから、スケープゴートにしようと思って。響君への執着のアピールとして写真を付けてみたんだよ。チョコレートの店で、偶然君を見つけて撮った写真を使ったのは、完全に僕のミスだね」  木之原が違法薬物や脅迫状に関わっているなんて、カメラ映像を見た時でさえ、響はどこか信じきれない気持ちがあった。十四歳で木之原が主治医になり、彼の誠実さや優しさ、強さに、どれほど助けられたか分からない。  けれど今目の前で、宮下をゲームのコマのように言う木之原は、まるで別人のように冷酷な人間に思える。 「……どうして、コンペの辞退を脅迫したんですか?」  響の問いに、木ノ原は光のない目を細める。 「響くん達のカラーは素晴らしい。デザインもコンセプトも魅力的だし、GPS機能や、それから生体センサーテクノロジーの搭載は、実に画期的だ。私もきっと、君たちのカラーが商品化されると思っている。……ただちょっと、素晴らしすぎたな」  聞き分けのない子供を相手にするような表情で、木之原が響を見た。 「高性能センサーなんて機能があったら、愚かなアルファが、愚かなオメガにこっそり薬を使うことが出来なくなるだろ?イチグラムでも多くのTX +を使わせる為には、君たちのカラーは邪魔なんだ」 「……そんな、理由で……」  呟いた響の声は掠れていた。  木之原は、カラーの成功を心から応援してくれていると思っていた。けれどそれは大きな勘違いで、本当は、響を心身共に追い詰めようとするほどに、カラーを疎ましく感じていたのだ。 「……バース専門医のあなたが、どうしてドラッグなんて」 「動機というやつかな?実にシンプルだよ。オメガとアルファの破滅のためだ」  木之原が肩をすくめ、あっさりと答える。 「TX +は、オメガはもちろん、アルファにも強い依存性が残る薬でね。オメガを介した使用者は簡単に常習者になり、常習者はやがて中毒者、廃人になる」  マウスかなにかの実験結果を解説するように、木ノ原は淡々と語った。 「バース専門医なんてのを長年やっていると、特殊バース性の愚かさや下らなさを嫌でも思い知らされる。ヒート、ラット、レイプや望まぬ妊娠、パートナーの奪い合い、浮気、不倫。これが全て“本能だから”?アルファもオメガも、理性のない、下半身で生きる(おぞ)ましい動物だ」  木ノ原の顔から笑みが消え、不快感が露骨に表れる。木之原という男の、本当の顔が覗いていた。
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