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 危機管理が出来なくなるだけでなく、壱弥が自分に触れないと、寂しさや悲しみを感じてしまう。英司や美琴、陽菜子たちとの新年会では、隣に壱弥が居ないことが嫌で、酒に逃げる始末だった。  そうして、ズルズルと決断を先延ばしにしているうちに、壱弥が倒れた。抑制剤の過剰摂取が原因だった。パッチ型から注射型へと、薬の強さも使用頻度もどんどんエスカレートしていたらしい。  壱弥が抑制剤を使っていたことは知らなかったから、動揺して、後悔して、彼を追い詰めた自分を責めた。医師から「数日の入院で大丈夫」と聞いた時は、心底――本当にちょっと涙が出るくらい、安心した。そして、壱弥と離れるなんて絶対にできないと確信した。  彼に惹かれるのが、バース性特有の遺伝子や本能の反応だとしても、自分が反応する相手が、壱弥で良かったと思える。彼の温かなで純粋な心に触れるたび、その思いは強くなる。壱弥が発情するのだとしても、壱弥の側にいたい。壱弥となら番になってもいい。いや、自分の番は、壱弥以外にいない。 「お前、俺に発情した?」  病院に運ばれた翌日、目覚めた壱弥に、響は率直に尋ねた。  ベッドに上半身を起こしていた壱弥は、ぐっと唇を噛み締め、項垂れるように頷いた。 「ごめんなさい。……俺、響のヒートに反応した。だけど、宮下が海外へ行くまで、って……黙ってた。本当にごめん」  シーツの上に置かれた壱弥の拳が、強く握られ白くなっている。 「壱弥」  響の声に、彼の肩がびくりと揺れた。大きな身体を縮こませたまま、力なく顔を上げる。その死刑判決を待つような表情に、響は胸が痛んだ。 「……もう。そんな顔すんなよ。俺が意地悪してるみたいでしょ」  ベッドサイドの来客用の椅子に腰掛け、壱弥の手を撫でた。壱弥は戸惑いながら、それでもおずおすと拳を開く。 「とりあえず、馬鹿みたいに抑制剤を使ってたことは、俺すごく怒ってるよ」 「ご、ごめんなさい……」 「……でも、そうさせたのは俺だから、……俺も、ごめん」 「そんな、なんで、響は何も悪くない」  壱弥がぶんぶんと首を振る。 「だけど、次用量を守らなかったら、クビにするからね」  クビになんか出来ないけれど、脅しておく。二度とあんな無茶をさせるわけにはいかない。 「……え、次って……俺、まだクビじゃないの……?」  怯えた壱弥の表情に、わずかに明るい色がさす。
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