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「いや、えっと……」
響はコーヒーを飲んで、気持ちを落ち着かせる。
「あの、壱弥が、……最近あんまり、俺に抱きついたりしなくなったから……俺のヒートを、気にしてるのかなって、思って……」
歯切れ悪く、本来伝えたかったことではない方向へ一旦逃げる。職権乱用かもしれないんだから、仕方ない。
「あ、ああ……その、それは……」
壱弥も、モゴモゴと口籠った。そして、なぜか少し頰を赤く染め、伺うように響を見る。
「ヒートを気にしてたってのも、もちろんあるんだけど。響に、……触ったりすると……その、た、……」
「……た?」
「た、……勃ちそうに、なるから……」
「……たち……」
意味を理解して、頰に一気に熱が集まった。
「……な、……た、た、って、なんで……だって、前までは全然……普通に触ってきたじゃん」
「……今は、響のヒートの時のこと、……い、色々、思い出しちゃって」
頰の熱は範囲を広げ、響の耳も首も熱くする。何か言おうと開いた口は、何も言葉を吐き出せず、はくはくと空振った。
「……俺、一回見たものは、めちゃくちゃしっかり、……全部覚えてるから」
めちゃくちゃ、しっかり、全部。
壱弥の言葉に、たまらず俯いた。熱はもう全身に広がっている。
「そ、そう……」
「うん……ごめん」
「いや、別に……謝ることじゃ……」
「……謝らなくて、いいの……?」
え、と顔を上げると、すぐ近くに壱弥の顔があった。
「俺、……響がヒートじゃなくても、発情するんだよ」
ぐっと身体を寄せられ、壱弥とソファのアーム部分に挟まれたようになる。
「……俺のこと、怖くない?」
頼り無い声だった。壱弥は少し近づいただけで、響に触れようとはしない。ソファにある彼の拳はまた白くなっていて、かすかに震えていた。
「……怖い?壱弥が?」
響は静かに息を吐いて、笑う。壱弥の頰に両手を置いた。
「そんなの、思ったことないよ」
額を額にくっつけると、数センチ目の前、壱弥の唇がぎゅうと結ばれた。響は少しだけ顔を離して、その下唇を親指でなぞる。
ヒートを警戒しなくていいとか、番になりたいとか、それよりももっと、しっかり言葉にしないといけない大事なことがあった。
「――壱弥のことが好きだから。怖くない」
なぞった所に口付けて、もう一度「好きだよ」と告げた。
壱弥の目が大きく見開かれる。間近で見るその瞳は、奥の方にきらきらとした光の粒が煌めいていて、たまらなく綺麗。
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