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「素敵なプレゼントと、パートナー様ですね」 「でしょ」  プロらしくにこやかに微笑む店員と、得意げに笑う壱弥に、響も硬い笑顔を見せる。  赤くなっているであろう頬を冷やすため、響は壱弥を連れ冬の外へと急いだ。  カラーコンペ当日、最終審査が行われているイベント会場は盛況だった。  会場内にはトレンドのファッションやフードのブースが立ち並び、華やかな雰囲気に満ちている。  宮下と木ノ原の事件の双方に、コンペ参加企業の代表である響が関わっていたことも相まって、このカラーコンペは多くの人々の関心を集めた。  今日の最終審査にも、会場のキャパシティを超える来場希望者が殺到した為、急遽野外スペースを追加する事態となった。オンラインでのリアル配信の視聴者数は、予想の三倍以上多いという。  自社カラーの最終プレゼンの為、ステージ袖で順番を待っている響に、英司が軽やかな足取りで近づいてくる。 「お前のプレゼン、今日一番の視聴者数になりそうだって。緊張して、ヘマすんなよ」  にやにやと笑う英司に、響は大袈裟に眉をひそめてみせた。 「味方にプレッシャーかけるなよ」 「プレッシャー?響、そんな言葉知ってたの?」 「ごめん、知らない」  英司と笑い合い、腕時計に目を落とす。 「プレゼン後に結果発表で、そのあと勝った企業のインタビューか。帰れるの夜中かな」 「あ、響さん。インタビューの後、主催企業と撮影もある」  響のシャツの襟や袖を、スタイリストのように整えていた壱弥が言う。 「あー、そうだった」 「イチ、予定把握してて偉いじゃん」  英司と一緒に壱弥をよしよしと誉めていると、苛立ちの混じる舌打ちが聞こえた。 「最終プレゼンを前に、もう勝った後の話か。さすが、余裕だよな。余裕というか、自信過剰か」 「オメガ様は勝負事においても、自己主張が激しいんだよ」  コンペに参加している他企業の社員たちだった。響達にわざと聞こえるように話している。よくこれで一次を通過したなと呆れた。   英司が怒りを滲ませた目を細め、何か――多分、丁寧な言葉で彼らを最大級に罵倒するようなこと――を言い返そうとするのを響は止める。 「いいよ英司。相手にすんな」  肩をすくめ、反撃を飲み込んだ英司の横から、代わりに壱弥がずいっと身体を乗り出した。 「あ、こら壱弥」 「響と英司さんがすごいからって、嫉妬するのよくないよ。すげぇカッコ悪いよ」  さん付けも敬語を忘れた壱弥の言葉に、英司が軽快に笑う。  男達は一瞬虚をつかれたような顔をした後、揃って不愉快そうに眉を寄せた。 「……一条さん、ちょっと、番犬の躾がなってないんじゃないですか?」  男の嘲るような口調に、頭がすっと冷える。響はその冷気を湛えた目を男に向け、口元だけで微笑んだ。 「すみません。彼はまだビジネスの場に慣れていなくて。――でも、僕たちに嫉妬して、みっともない姿を晒してる方々より、よっぽど賢くて優秀ですけどね」  男達の顔がさらに歪み、英司と壱弥がさりげなくハイタッチをしたところで、響はステージに呼ばれた。    響たちの最終プレゼンは順調に進んだ。  観客は熱心にカラーの説明に耳を傾けてくれて、イヤモニから飛んできた英司の報告よると、ネットの反響もほとんどが好意的なものらしい。  商品説明を終わらせ、残すは響の締めのスピーチのみとなった。  プロジェクターの映像が消え、スポットライトが響だけに集まる。背筋を伸ばしニコリと微笑むと、黄色い声の混じる歓声が起きた。
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