流れ星、アパートに落ちる

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流れ星、アパートに落ちる

 流れ星が、僕の小さな小さな部屋に降ってきた。青く、明るく光る、それはそれは、美しい煌めきが。  そして、その傍らには、天使も一緒に。  梅雨まだ明けきらぬ七月。仕事からの帰り道、北の空に青白く光る流星を見た。  僕はボロボロだった。仕事もうまくいかない。最愛のペット……いや、家族同然だった犬のモモにも、死に別れてしまった。  一人っ子の僕──藤原和也──にとって、モモは大事な妹のような存在だった。    モモが初めて我が家にやってきたのは、ちょうど桃の節句の日。不安そうに僕たち家族を見上げる仔犬に、モモと名付けたのは僕だ。  優しい性格の犬だった。友達と喧嘩したときには、隣に座って慰めてくれた。僕が熱を出して布団で横になっていると、心配そうに一晩中、隣に寝ていた。お腹を撫でられるのが大好きで、僕が帰るといつも玄関で仰向けになって出迎えてくれた……。    だが、モモはもういない。最期の時にも、立ち会えなかったのだ。  モモが逝ってしまってから半年。暗い森の中を彷徨い歩いているような生活を送っている僕には、その流星の放つ光は、眩しすぎて目眩を起こしそうだった。  それでも目が離せず、うっとり眺めていると、突然、僕の古いアパートの方へ「ガシャン」と音を立てて落ちた。 「えっ。まさか、僕の部屋に!?」  慌てて帰って、「藤原」の表札がかかっている扉を開けると、ベランダの窓ガラスが割れて、部屋中に散乱しているではないか。今年大学を卒業して就職したばかりの僕にとっては、借りたばかりの1DKだ。思わず呆然としてしまう。 「うわあ。大変なことになったなあ……」  辺りを見回すと、その中に、不思議な光を放つものが落ちていた。 「窓の破片、じゃないよな……?」  それはこぶし大くらいの、石のような、金属のような、陶器のような、なんとも形容しがたいもので、内側から青白く光っていた。 (さっき見た流れ星だろうか? いや、まさか……)  僕は恐る恐る手を近づけてみたが、熱くはなさそうだ。思い切って両手で拾い上げてみた。思ったより軽く、美しく輝き続けている。僕の顔が、明るく照らし出された。モモが顔を近づけてきたときのように、僅かにあたたかい。 「綺麗だなあ……」   その光は、優しくて柔らかくて、それでいて力強く、生まれる前に見たことがあるような、懐かしい感じがした。 「モモに見せたら、きっと喜ぶだろうな」  怖がりのくせに、モモは好奇心旺盛な犬だった。新しいオモチャを見せるたび、尻尾を振って飛びついた。匂いを嗅いだり、噛んでみたり、転がしたり……。  つい、そんなことを思い出してしまい、胸の奥がズキンと痛んだ。  と、その時、ベランダから声がした。
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