飼い主探し

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飼い主探し

 一週間が経った。あれから僕は、拾った犬の画像をSNSにあげてみたり、友達に声をかけてみたりしたが、飼い主になろうと名乗り出る人はいない。今日も昼休みにスマホをチェックするが、やはり何の反応もない。 「藤原、何やってんだ? 犬の画像なんか見て」  突然、後ろから部長に声をかけられて、僕は椅子の上で飛び上がった。 「あ、あの、犬を拾ったので、飼い主を探しているんです。あの、部長は犬、好きですか?」 「犬だあ? お前は今朝も出荷依頼間違えたばっかりだろうが。お前みたいなボンヤリは、昼休み返上で働くくらいじゃなきゃ、他の社員とのバランスがとれないんだよ」 「はい……。すみません」  昼休みに何を見ようが勝手だと思うのだが、自分のポンコツぶりに引け目を感じているため、つい謝ってしまう。  部長が出ていったのを確認してから、もう一度スマホに目を落とした。「里親募集中」の文字。茶色い犬の、つぶらな黒い目。その目は「誰かもらってください」と訴えているように見えた。だが、誰も手を挙げてくれないのだ……。 (実家で飼ってもらうしかないかな) そんなことを考えていると、 「藤原君、飼い主見つかりそう?」  斜め前に座っている青井先輩が、弁当箱を広げながら僕に尋ねた。 「いえ、全然」 「そう……私も友達に声かけてるけど、なかなかいい返事を貰えなくて」 「やっぱり仔犬でないと難しいですかね」 「藤原君、疲れた顔してるね。そういえば、窓ガラスはどうなったの?」 「おかげさまで給料も入りましたし、今度の休みに直してもらいます」 「そう、よかったわ」  そんなことをまだ、気に留めてくれていたんだなと思うと、疲れている心が少し軽くなった。仕事ができるだけではなく、出来の悪い後輩に気遣いもできるなんて、尊敬してしまう。
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