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意外な一面
「そういえば青井先輩、いつもお弁当を作ってきて、すごいですよね。しかも、すごく美味しそうで」
「これ? これは母が作ってくれているの。私はいつも朝ギリギリまで寝てるから」
「え、そうなんですか?」
意外すぎる。朝早起きしてお弁当を作り、綺麗に髪をセットして、颯爽と出勤するイメージだったのだが。僕がそう言うと、
「とんでもない! 私、何故か昔から『ちゃんとしてそう』って言われるんだけど、全然違うよ。この髪だってね、面倒だから一つに纏めてるだけだし。」
「そうなんですね……」
「ふふ、呆れたでしょう」
青井先輩の笑顔が、何故か一段と可愛らしく見えた。
「あ、いえ、驚きましたけど、呆れてはいないです」
「本当に? 私、この間、それが原因でフラれたのよ。『君はもっとちゃんとしてる人だと思ってた』なんて言われてね」
そんなことで、この素敵な人を振るなんて、僕からしたら信じられない話だ。
「それは、その元カレさんがおかしいですよ。あ、もしかして薄化粧なのは……」
「お察しの通りよ。きちんとお化粧なんてできないもん」
できないもん、と言って、ちょっと頬を膨らませた顔が可愛らしい。
僕が勝手に優等生タイプだと決めつけていた青井先輩のイメージがガラガラと崩れていくが、それはとても心地よいものだった。
「あ、そうだ。今度一緒に、服でも見に行かない?」
「えっ」
それはもしかしてデートのお誘いというものだろうか。演劇サークル以外で、女性と外で会ったことのない僕は緊張してしまう。
だが青井先輩は、頬に手をあてて考え込むようにして、
「私も私服をもうちょっと頑張らないといけないから、男性目線の意見も聞きたいと思って」
なるほどね! でも、いいじゃないか。青井先輩と二人で出かけられるなんて。これもやっぱり、天使のキスのおかげだろうか。幸運を分け与えてくれるキスの効力は、まだ続いているようだ。
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