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希望のカケラ
そうしてどれだけの時間が過ぎただろうか。疲れ果てた僕たちは、雲海の果てに座り込んだ。空はまだ青い。天国だからだろうか? 地上はとうに夜のはずだが。
「モモ……一緒に帰るか? また一緒に暮らして、一緒に散歩して……」
そう告げた僕に、いつの間にか横に立っていた天使が首を振った。
「その子は、もう、天界の住人。連れて帰ることはできませんよ」
「え……」
「あなたがこちらに来られるのは、まだまだずっと先のことです。今日は特別ですよ。お礼ですから」
「そうなんですね……」
「また天界にいらっしゃったときには、熱いコーヒーに、たっぷりのミルクと、砂糖を三つ入れてくださいね。一緒に飲みましょう」
そう言って、天使はにっこりと微笑んだ。
「ですからそれは甘すぎますって……。あ、お礼といえば、僕の部屋に落ちてきた流れ星って、結局、何なんですか?」
ずっと抱いていた素朴な疑問を、僕は口にした。
「あれは、希望のカケラです」
「希望の?」
「ええ。沢山の人に希望を配るためのもの。夜のとばりが下りたころ、あれを、私たち天使が夜の底からすくいだして、人々に振りまくのです。そうすると、みんなの心に希望が芽生えて、明日を生きる糧になるのです」
「そんな大事なものだったんですね……」
それを落としてしまうだなんて、やっぱりポンコツぶりが僕に似ている。
「ですから、拾ってくださって助かりました。あなたのおかげで、沢山の人がまた笑顔になれたのですから」
そう語る天使の横顔は、文字通り「この世のものではない」美しさだった。
「さあ、そろそろ戻りましょうか……」
「モモ……」
「大丈夫です。また、いずれ会える時が来ますし……。それに、あなたにはもう、新しく笑顔にすべき相手がいるのですから」
天使の微笑みを見たと思った次の瞬間、体が浮遊するとともに、どこかに背中からふわりと着地した。
最後に、「ワン!」というモモの元気な声が聞こえて、心がゆっくりと安心に包まれていくのが分かった。
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