演劇サークル時代

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演劇サークル時代

──藤原君はよく頑張ってるよ。  青井先輩はそう言ってくれるし、また自分でも頑張っているつもりではあるのだが、迷惑のかけ通しであるのは事実だ。つい昨日も、データひとつ消してしまい、青井先輩まで一緒に残業させてしまったばかりだ。  それでも、優しい青井先輩は、文句ひとつ言わない。あまりに申し訳ないので、「このダメ男いい加減にしろ」と罵られるほうが、いっそ気が楽だとまで思う。  この春、大学を卒業するまで、僕は演劇サークルに所属していた。「お前のようなボンヤリが、よく大勢の前で話せるものだ」と親にはよく言われたが、決まったセリフを喋るのは、かえって気が楽だった。  仲間たちは、みな才能はあるが、ネジが一、二本緩んでいる人間ばかり。人見知りの僕だが、彼らと演劇の話をするのはとても楽しかった。 ──毎日の練習。日を追うごとにボロボロになっていく台本。みんなで作ったセットや衣装。本番で浴びる拍手。観客から貰う花束の美しさ。気の置けない楽しい仲間たちとの日々──  だが結局、プロの役者になるほどの才能はないと悟り、苦手な面接を何十件と乗り越えて、ようやく、この小さな貿易会社に就職したのだ。  本当は、せめて少しでも演劇に関われるような仕事に就きたかったのだが、それも叶わなかった。こうしてみると、僕のあの大学時代は、なんだったのだろう。あの日々に意味はあったのか……。  そんなことを考えながら仕事をしていたら、またミスをしてしまった。けしていい加減に作業をしているわけではないのだが、いつの間にか脳が勝手に別のことを考えてしまうのだ。つくづく、こんな自分が嫌になる。やっとのことで資料を作り直し終えると、外はすっかり暗くなっていた。  僕の心も暗いまま、家路についた。
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