10人が本棚に入れています
本棚に追加
落ちこぼれ同士
「はい。実は私、カケラを落としたのが、これで3回目なんです。その上、お礼もできないでは、左遷されてもおかしくありません」
「それは……大変ですね」
落ちこぼれ社員の僕としては、そう言われては共感するほかない。天使の業界も大変なのだ。せめて何かしてあげたい。
……いやまて。天使に同情するってどういうことだ。
「私を助けると思って、何か願い事をしてください」
「えっと、それなら窓ガラスの修理では駄目なんですか?」
「あまり願い事が小さすぎても、処分の理由になってしまうんです。天界には、期限を延ばすように頼みますから……ね、お願いします」
「は、はい」
天使の切羽詰まった顔を見て、思わず頷いてしまった。僕から色々頼みごとをされている青井先輩も、こんな気分なのだろうか。
「では、また来ます。願い事、考えておいてくださいね!」
そう言うと、天使はスウッと霧のように消えてしまった。この退場には、いまだに慣れない。
「どうしよう……でも、降格は気の毒だし」
珈琲カップはいつの間にか空になっている。しっかり飲んでいったのかと思うと、妙におかしい。
「モモ、どうしようか?」
勿論、返事はない。
そういえば、僕はどうして友達にも話していないモモのことを、天使には話したのだろうか。
彼(彼女?)は人間ではないから、かえって話しやすかったのかもしれない。
ソファの上には、天使が読んでいた漫画雑誌が広げられたまま。人間臭いその仕草を思い出して、僕は思わずクスッと笑った。
最初のコメントを投稿しよう!