深夜、走る箱のなかで

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 なんだか、スマホの画面が歪む。  そう気づいたのは、なんとなく息苦しくて上げた顔を、窓に向けた時だった。そうしたとたんに楽になったのだ。  外の街のネオンが次々に通り過ぎていく。ぽっかり浮かんだ満月が照らす暗闇の中で、風を切り裂く音をたてて、バスは進んでいく。  またスマホの画面に目を戻すと、今度は息苦しいだけじゃなく、胃液があがってくるのを感じた。生姜の味がする。  まさか、これが酔い?  酔うのは初めての経験だった。  何とか吐き気を堪え、前の座席背部ポケットにあるエチケット袋を広げる。  投げ捨てるようにスマホは席に置き、顔を袋に向けておく。この姿勢でいるだけで余計に吐き気がするような気がするが、エチケット袋をもたないわけにはいかない。
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