深夜、走る箱のなかで

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 バスにつくと、おじさんは前回と同じように僕を先に乗せた。  先に車内に入ったため、自然と僕はおじさんの席だった一-D席に座り、おじさんは空席であるはずの一-C席に腰をおろした。 「一人? 学生さんかい?」 「はい。中学なんやけど、今日は一人旅で」  説教だろうか。親の許可はとってるかとか、子どもが一人で外出してはならないとか。  そんなことのために呼ばれたのだろうか。 「どこへ行くんだい?」 「ディズニー」 「一人でか?」  一人ぼっちを侮辱されてると思った僕は、何が悪いと言い返そうとしたが、おじさんはにかっと笑った。 「一人旅ってのはいいねぇ。気ままでさ。僕も昔は勝手に外をほっつき歩いては、怒られたもんよ」 「おじさんも?」 「そうそう。流石にディズニーには一人で行く勇気はないけどな」  僕はかっと赤面した。それには気づいていなかった。  恥ずかしい嘘をついていたかもしれない。  慌てた僕は、誤解を解きたくなった。 「ちゃう。それは母さんを誤魔化すためやねん。ほんまは、父さんに会いに行くんよ」 「お父さんに?」  一緒に住んでいるのではないのかと、おじさんは身を乗り出した。ぼくはほっとレモンを一口飲んで、口を湿らせた。
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