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二曲目が終わりMCに入る。ギターボーカル氏は水を飲み、会場の観客たちをざっと視線でなぞった。
「今日はおれたちの記念すべき初ライブです! 残念ながらフルメンバーではありません。急に助っ人をお願いしたベースのかたには感謝しています。今日は精一杯、演奏を続けたいと思います 。あ、ええと、自分はボーカルの――」
黒い影が割って入る。
「まあ待て、メンバー紹介は全員集まってからでいいだろ。見えてるぜ、隅っこで覗いてるシャイボーイ。おまえが逃げ出す気持ちもわかるし、いやになったら逃げてもいいんだ。事実、俺は今日、バイトをやめてきた。ファミレスのホールはいっぺんに相対するのは四人だか六人だかだけど、それっぽちの人数もさばけない俺が、このステージの上ならたとえ百人以上だって相手取れる――」
人清は借り物のベースをなでた。細かい傷は数あれど、汚れはひとつとして見当たらない。
「――こいつがあるからだ。安モンだが、大事にしてきたんだろ? こいつもおまえに弾かれるのを待ってるぜ。練習したんだろ? もう一曲やるあいだに決めな。早くしねえと俺の演奏が大事なお仲間を魅了しきっちまうぞ」
続きを引き取ってギターボーカル氏は声を震わせる。
「お前とここで演奏したいんだ! このバンドにはお前が必要なんだよ! お前じゃなきゃだめなんだ!」
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