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なんて、人生ナメ腐り系バンドとしてやっていくのもありかもしれんがここはひとまず相談だ。
「オレたちってそんなパッとしてねえっすかね……?」
カウンターの向こうに立っているのは蓄えた髭が特徴的な店長だった。グラスを拭く手をとめ五十前の男は柔らかな笑みをたたえる。
「いいや、派手なほうだと思うぞ。ナナちゃんの作る曲、僕は好きだがね」
「僕は、ってことは一般受けはあんましって感じっすか?」
「少なくともナナちゃんたちは学校じゃツートップを張れてるそうじゃないか。あるていどは受けてなきゃそうはならないだろう」
「なーんか、歯に物が挟まった感じすね……」
「うちでもナナちゃんたち目当ての客は多い」
「そりゃ、マジありがたいっすけど」
ライブハウス【Shirley Temple】は小さな箱で、オレたちがワンマンライブをやれば半分は埋まる。それだけ集められれば充分じゃないか。素晴らしい!
そう思えば内心で喝采するのはたやすい。そうさ、それだけ呼ぶのがどれだけ大変か、忘れたわけじゃないが、どうしてもこの先に進むには殻を破らなければならない気がしている。
将来への不安に焦っているだけなんじゃないかと我ながら思う。
「キヨちゃんやマモちゃんはなんて言ってるんだ?」
「こんなことたずねたりしませんて。オレはリーダーなんで、弱気な姿は見せてないんす」
「見せたくないなら、それもいいか」
店長は困ったように笑いながら肯定する。てっきり『本音を晒し合ってこその仲間だ!』なんて返ってくるかと思ったら違った。
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