2人が本棚に入れています
本棚に追加
そんな仲間が今日はいない。ふたりともこの冬休みはアルバイトに精を出していた。オレはたまに店長経由で曲づくりに迷える仔羊に助言をしては小銭をせしめている。
オレ自身が人生に迷っているのに他人に道を示すことはできた。不思議なもんだ。
店長は慣れた手つきでカクテルを作る。店名の由来にもなっているシャーリーテンプルは地域によってレシピにばらつきがあるらしい。ここではグレナデンシロップを辛口のジンジャーエールで割りライムを添えていた。
「カクテル言葉は『用心深い』だ」
差し出されたそれをひと口飲む。痺れる辛さをシロップの甘みが包んで飲みやすい。
店長は続ける。
「ほんとうは、シロップとジンジャーエールの比率を逆にして『テンプルシャーリーだ、カクテル言葉は不用心』って言おうと思った」
「なんすかそれ」
「シロップがもったいないし、飲み物で遊んでいると思われるだろうし、客に出すには糖分が多すぎるしで、日和った」
「店長がいちばん用心深いっすね」
「僕が言いたいのは、たまには飛び込むのも悪くないぞ、ってことだ。精神的にしろ、肉体的にしろな」
「……そうか、オレはもしかしたら退屈してただけかもしれません。いやホントおこがましいかぎりなんすけど、でも、わかりました」
新曲を作ろう。誰もついてこられないくらいに独創的な曲だ。そいつを引っ提げてオーディションでもなんでも受けてやる。
このままじゃオレたちに未来なんざ、ねえ。まずオレが誰も追いつけないくらいにぶっちぎって、未来のしっぽをつかんでやんのよ。
最初のコメントを投稿しよう!