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「バイトは?」
「やめた。あんなん人間がやる仕事じゃねえわ」
「またかよ。ファミレスのホールだったか」
オレはそれ以上は追求せずに肩をすくめるのみにした。店長は人清にもシャーリーテンプルを作ってやる。
「あんたら、よかったら今日のライブ観ていかないか?」
「始めからそのつもりでしたけど、なんでっすか?」
「今日は四組やるんだが、ひと組、初めてステージに立つ子らがいてな、あんまり人が少ないと張り合いもないと思ってな。あ、チケット代はいらないよ」
「いや、払いますって。その子らが売れたときに初ステージから追ってたってちゃんと言いたいですもん」
「はは、そりゃ失敬」
グラスの半分ほど飲んだ人清が口を挟む。
「俺が観てやるから七介におごったぶんのチケット代をください」
「またオマエはむちゃくちゃ言って――」
「いいぞ」
「いいぞ、じゃないっすよ店長!」
「やりぃ!」
――なんて話してるあいだにちらほらと人が増えてきた。トリで出演らしい顔なじみのバンドと軽くあいさつを交わしているとなにやら控え室のほうが騒がしい。
なんだ、とそちらに目を向けたとき、少年が飛び出してきた。
そのまま一散に地上につながるドアから外に出ていってしまった。少年を追ってまたべつの少年がオレたちの横をすり抜けていく。
すぐ戻りますから! と店長に言いおいて彼は地上へと消えた。なんなんだ……?
控え室からさらにもうふたりの少年が出てきた。青い顔で彼らは店長に頭を下げる。
曰く、彼らがいま聞いた今日が初ステージのバンドだそうで、自分たちのバンドのメンバーが緊張とプレッシャーで潰れてしまった。もしかしたらライブに穴を空けてしまうかもしれない、だそうだ。
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