小笠原嶺二

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 刑務所の裏門をIDカードで通り、裏口も同じようにして潜ることができた。すれ違う職員は誰も侵入者だと気付かなかった。  職員用の通用口を歩きガラス扉の前でまたカードをかざして中に入ると、その先は服役者たちの収監場所だった。  私は通路の中程の102と書かれた部屋のドアをそっと開けた。そこが奴の部屋だと田中から聞いていたからだ。    部屋は暗く、鉄格子で囲われた小さな窓から外の暗闇が見える。  ベッドで梶原充が眠っていた。暗闇の中でもその顔がはっきりと見えた。こいつが息子を殺した男だ。怒りが込み上げてきた。 「おい」  男に顔を近づけ声をかけた。 「おい、起きろ」  男が目を開け起き上がり「誰だ?」と聞いた。 「小笠原啓斗の父親だ。お前が殺した息子だよ」 「そんな奴いたっけか」と男は薄ら笑いをした。握った拳が震えた。 「聞きたいことがある」  怒りを堪え私は男の顔を見た。男は立ち上がり、「何だよ?」と向き合った。 「お前は啓太を価値がないと……人間じゃないと思うか?」  男は微かに頷いたように見えた。  腰からナイフを抜いた直後梶原が掴みかかってきて、私達はしばらく揉み合った。  私は梶原の顔を右拳で殴りつけ、相手がよろけた隙にナイフを天高く振りかざした。その時私は確かに感じた。懐かしい温かい感覚が手の中に甦るのを。  そして、辺りが目も眩むような白い光に包まれるのを。  梶原の顔が恐怖に引き攣って、口から「ひいぃっ」と間抜けな悲鳴が漏れた。男は後退り腰を抜かし震える声で叫んだ。 「剣だ……こいつは剣を持ってる!! 眩しい……目が潰れる!!」  梶原は尻餅をついたままガタガタと震え、私の背後を指差して更に表情を凍らせた。  その時私は確かに見た。  背後に黒煙が立ち上り、巨大な龍が姿を現すのを。  竜は黄色く光る鋭い目で男を睨みつけ唸った。直後、鼓膜が張り裂けんばかりの咆哮に地面が激しく揺れる。   「ギャアアァ〜!! 竜だ!! でかい竜が襲ってくる!! やめろ、やめてくれえぇぇ!! 許してくれえぇぇ!!」  梶原は激しく失禁し床に大きな水溜りができた。  竜は鱗に覆われたその巨大な半身を反らせ、大きな口を裂けんばかりに開いて真っ赤な炎を吐いた。轟音と絶叫が響き渡る。 「あ"ぁ"ぁぁぁ!! 熱い!! 熱い!! 死ぬ!! 助けてくれぇぇぇ!!」  炎に巻かれた梶原はのたうち回った。  やがて竜は格子窓の外に消え、炎もなくなり、気を失った梶原と私だけが残された。  駆けつけた刑務官によって私は捕えられた。
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