1st part

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「お前は」 父が小さく笑いながら、僕に問いかけた。 「ん?」 「好きな人はいないのか」 「いないよ、できたことない」 「俺がお前くらいの時にはもう」 「母さんと付き合ってたんだよね」 駅を抜け、長い通路を歩きながら父を見る。 「仲のいい友達、小学校から一緒の佐橋の ことだけど、あいつがいるし。高校からは 秋津って奴とも仲良くなった。書道部の 女子の先輩とは話すけど、イマイチ興味を そそられない」 「なるほど」 「父さん。たぶん僕は誰とも結婚しない。 書道を活かして働くことが優先で、 卒業したら大学か専門学校で書道を勉強 したい。父さんたちにはまだまだ世話に なってしまうけど、少しずつお金は返すよ」 「金のことは気にしなくていい。母さんも 働いてるし、家のローンも目処が立った。 俺たちはできる限りお前のサポートをする。 悩みができたら何でも話してくれよ」 「わかった。ありがとう」 持つべき物は、頼れるオトナだ。
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