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「お前は」
父が小さく笑いながら、僕に問いかけた。
「ん?」
「好きな人はいないのか」
「いないよ、できたことない」
「俺がお前くらいの時にはもう」
「母さんと付き合ってたんだよね」
駅を抜け、長い通路を歩きながら父を見る。
「仲のいい友達、小学校から一緒の佐橋の
ことだけど、あいつがいるし。高校からは
秋津って奴とも仲良くなった。書道部の
女子の先輩とは話すけど、イマイチ興味を
そそられない」
「なるほど」
「父さん。たぶん僕は誰とも結婚しない。
書道を活かして働くことが優先で、
卒業したら大学か専門学校で書道を勉強
したい。父さんたちにはまだまだ世話に
なってしまうけど、少しずつお金は返すよ」
「金のことは気にしなくていい。母さんも
働いてるし、家のローンも目処が立った。
俺たちはできる限りお前のサポートをする。
悩みができたら何でも話してくれよ」
「わかった。ありがとう」
持つべき物は、頼れるオトナだ。
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