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「父さん?!それって」
「見ての通り、宿泊券」
彼とヨリが戻り、1ヶ月半が経った。
5月末に部活を引退した彼は、
本格的に受験勉強に取り組み始めた。
火曜日土曜日日曜日の週3日は自宅勉強会、
残りの日は図書館で数時間勉強している。
もちろん彼に付き合って一緒に過ごして
いるが、たまには佐橋たちとマックに行って
くだらない話をしたいと思っていた。
「由貴、たまには休まない?」
とそんなことを言おうものなら、
「はあ?俺を浪人させたいの」
と噛みつかれ、取り付く島がない。
たまにはイチャイチャしたいという
僕の切なる願いは儚く消え失せている。
「こんなことなら由里さんを選べば良かった」
なんて言える訳がない。
それこそ最大の爆弾を落とされかねない。
あれから由里さんとは会っていない。
一人っ子の僕にとっては、姉のような
頼りになる存在だが、
勉強会という過密スケジュールのせいで
連絡もままならない。
大学のことも聞きたいのに‥‥
そんな矢先、銀行の支店長をしている父が
素晴らしいプレゼントを持って帰ってきた。
「ねえ。それは母さんと使うの?」
「どうしようかなあ」
ひらひらとチケットをかざす父は、
僕を試しているようだった。
銀行のお得意様からもらったというそれは、
岡山県にある優良旅館の宿泊券。
それも2泊。素晴らしい。
「たまには有給休暇取って行ってきなよ。
僕もうすぐ夏休みだし。勉強して待ってる」
「川瀬くんのおかげで成績が上がったし、
葵にあげようと思ったんだが。そうか、
母さんと行っていいか」
「うん。大丈夫。たぶん川瀬くん、千葉から
離れたくないと思う。その代わり川瀬くんを
うちに泊めてもいいかなあ」
「構わないよ。じゃあ、葵の夏休み中に
母さんと旅行に行って来るよ」
久しぶりに彼とイチャイチャできるかも。
僕の胸は高鳴った。
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