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彼が選手たちの列から離れ、
壇上の男性に向かい合うように立った。
白いゼッケンをつけた黒のユニフォーム、
学生服とは雰囲気の違う彼の姿に見惚れた。
「宣誓」
彼は軽くその場で右手を上げ、言った。
「僕たちはスポーツマンシップに則り、
正々堂々と戦うことを誓います」
先程より大きな拍手が沸き起こる。
うちの高校は公立の進学校で、決して
運動部は盛んではない。
文化祭ではテレビにもよく取り上げられる
クイズ研究会が主催するクイズ大会が
盛り上がるだけだし、体育祭も陸上部が
活躍している認識はなかった。
でも、彼は優勝者なんだ‥‥知らなかった。
いかに学校の話題に疎いことがわかり、
恥ずかしくなった。
「お母さん、川瀬くんかっこいいでしょ」
不意に隣に座っていた同世代の女の子が
並んで座る母親に囁いた。
「ホントね。あんたも同じ高校行けたら
良かったのに」
「無理よ。めちゃくちゃレベル高い学校
だもん。というか、川瀬くんは絶対に
スポーツ校には行きたくない、怪我して
大会に出られなくなったら潰しが効かない。
俺は大学には学力で行きたいって言ってた」
「で、○○高校なのね。振られちゃって
残念だったわね」
「うん‥‥まだ彼女、いないのかなあ」
「どうかしらね」
どうやら彼女は、中学の同級生のようだ。
なるほど、やっぱりモテるんだなと内心
複雑な気持ちを抱いた。
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