命のバトン

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 五分くらい走った所で、チコが川に向かって土手を下って行った。私の膝丈の茶色い枯れ草の波をチコは白い舟のように進んで行く。  立ち止まったチコが振り返った。 「チコ」  手を伸ばすとチコの姿は消えてしまった。  夢でも妄想でも幻覚でも何でも良かった。  ありえない事だって頭のどこかでは分かってた。それでも、それでもいいから抱きしめたかった。堰を切ったように泣き出した私の耳に、かすかに聞こえる声。  涙を絞り落とした先に体を寄せ合う2匹の仔犬の姿があった。川っぷちの人目につかない場所にダンボールに入れられて、ただ終わりを待っていた小さな命たち。  チコによく似た白い女の子と、茶色がかった男の子…不安と寒さに震える確かな命たち。
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