命のバトン

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「もう大丈夫だよ」  上着を脱いで2匹を包んだ。  一瞬も迷いは無かった。  助けたい。守りたい。  チコが導いてくれた二つの命を抱きしめた。  立ち上がり振り返ると、そこに同い年くらいの男の人が立っていた。  涙目の彼は、私の抱えている仔犬を見て優しい顔をして笑った。 「その茶色い犬、俺に譲ってくれない?」 「…」 「あ、俺近くに住んでて…名前は中村明由(あきよし)。年は22」 「あ、私は木田香子(こうこ)です。20歳(はたち)です」 「えっ…と」 「今から病院に連れて行こうと思って…」 「俺も行くよ。一緒に」  中村さんはそう言うと自分の上着を脱いで私の肩にかけ、一番上のボタンを留めた。 「…ありがとうございます」  正直ロンT一枚で寒くて仕方なかったので有り難く好意を受け取った。 「……捨てた本人じゃないよね?」 「違います」  突然の質問の内容にあからさまに嫌な顔をすると「ごめん」と言いながら中村さんは仔犬たちに目を向けてまた優しい顔をして笑った。  土手に戻り見下ろした景色を見て、彼がそう聞いた理由が分かった。普通に考えて草むらの奥にいたこの子たちに気付ける訳がない。
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