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ワンワン、とうるさく吠える鳴き声が聞こえて、僕は少しうんざりした気持ちで玄関に向かった。飼い犬のテトラが鳴いているのだ。テトラは夕方になるとよく吠える。以前からだけれど、最近は特に吠えることが増えてきた。幸い、ここは田舎の古い家で、鳴き声で近所に迷惑をかけるということはないし、この家で暮らしているのもテトラ意外には僕だけだから、僕が我慢すればいいことなのだけれど、正直うるさいのだ。夕方だけならともかく、夜に吠えることもあって、そのたびに僕は目覚めてしまう。
夜に吠えるようになってからも、しばらくは我慢していたのだけれど、あまりにも吠え続けるから、何とかしなければと僕は思い始めた。このままでは夜に眠れなくなってしまう。そこでその日僕は、昼寝を長く取って、その代わりに徹夜でテトラを見張ることにした。
夕方、テトラが鳴き始めてから、僕は玄関に出た。テトラは、何を見ているのか分からないけれど、何かに向かって吠えている。僕はテトラの頭をなでて、抱きかかえるようにしてなだめる。しばらくしてテトラは吠えるのをやめ、おとなしくなった。そのまま僕はテトラのそばに座る。そうしてぼんやりと空を眺める。
きれいな空が見えて、その空は次第に暗くなっていく。時間がたつのが早い、と感じる。ここが田舎だからなのか、時間の流れが都会と違うように感じる。次第に僕は眠くなってきて、目を閉じた。
テトラの吠える声で僕は目を覚ました。さっきよりも強い鳴き声で何かに向かって吠えている。僕はまた頭をなでたけれど、今度は吠えるのをやめようとしない。その必死に吠える様子に、僕は少し怖くなる。何に向かって吠えているのか。でも、テトラの視線の先には何も見えない。
と、突然、キャン!とテトラが悲鳴のような鳴き声を出し、後ろに跳ねた。それでもテトラは、その何かから視線を外さず、唸っている。怯えているのが分かる。僕はよけいに怖くなって、テトラのそばにより、テトラが見ている方を見る。やはり何も見えない。けれど、おそらく、そこには何かがいるのだ。テトラにしか見えない何かが。
ワンワン!とテトラが強く吠えて、姿勢を低くした。きっと、見えない何かが、襲い掛かってきたのだ。僕は反射的に、テトラを守ろうと、テトラに覆いかぶさった。そして。
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