その三 州城に着きましたが、池には何やら怪しい蓮が茂っているようです!

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 男と女が、茶館で寄り添い、親しげに話をしている絵だ。  女は、今、しゃがみ込んで宙に浮かぶ絵を見つめている、この女の人だ。  男は、ここに倒れている男の人なのかもしれない。  二人はやがて別れて、男の人は一人で小さな酒楼に向かった。  そこには、女の人とよく似た別の女人人が待っていて、入ってきた男の人に抱きついた。  その絵を見て、しゃがみ込んでいた女の人が、驚きの声を上げた。  やがて、靄は絵を映すだけでなく、声や物音まで発するようになった。  絵の中の男女の会話が、鮮明に聞こえてきた。  ―― ねえ、治宏(ジーホン)。本当に姉さんと別れてくれるの?  ―― ああ、明日、二人で露茜池へ出かけるから、そのときにはっきり言う       よ。  ―― 嬉しい! うふふふ……、姉さん、どんな顔するかしら?     あなたが、わたしに夢中だってことに、きっとまだ気づいていないわ      よね。  ―― そりゃあそうさ。清茄(チンルウ)は、俺にベタ惚れだからな。  それから二人は、ひとしきり笑い合った後、酒楼を出て繁華街の中を歩き出した。  映し絵はそこで終わった。男の人が、目を覚まし起き上がったからだ。  男の人は、顔から蓮の葉を乱暴にむしり取り、その辺に投げ捨てると女の人を見た。  女の人が、恐ろしい顔で男の人を睨んでいた。  男の人は、わけがわからない様子で女の人に呼びかけた。 「チ、清茄……、あ、あの、いったい……」  ―― バチンッ!!  手を振り上げ、男の人の頬を思い切りひっぱたくと、女の人は立ち上がり、よろけながら走り去ってしまった。  男の人は、その場に座り込み、周りに集まった人々に答えを求めるように目を向けた。  しかし、誰もが目をそらすようにして、そそくさとその場を立ち去っていく。  結局、最後まで見つめていたわたしと彼の目線が合うことになってしまった!
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