思い出の犬二篇

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☆☆  仕事の帰り、ある公園の横を通っていた時期。  犬を遊ばせるには丁度いい広さなせいか、夜によく犬と飼い主がいることがあった。  余程楽しいのか、時々テンションブチ上がって通行人に飛びかかってしまうワンコもいた。噛まれることこそなかったが、かなり怖かった。  そういう犬の飼い主は、よくて暗い公園の奥から「すいませーん」と言う程度で、コッチが飛びかかられて転んでようが姿を見せることはない。  腹は立つが、コッチは犬をけしかけられたら勝ち目がない。追撃が来ないうちに帰るしかなかった。  その日も、夜の帰り道。  例の公園の横を歩いていると、私に真っ直ぐに駆け寄ってくる中型犬がいた。  うわ! と慌てて、思わず言った。 「止まれ!」  犬は、止まった。  ご機嫌そうなまま、その場にステイしてくれたのだ。見知らぬ人の命令に。 「そのまま、そのまま」  賢くてコレ幸いと、私は命令しながら後退りして、角を曲がった。犬は、ずっと止まっててくれた。  曲がった途端、遠くから人の声がした。覗くと、犬は公園の中へ駆けていく。  ……気づいてたんなら引き取りに来いや飼い主ぃ!  だが、飼い主はさておき、あの犬とは戦いたくなかった。  止まってくれたことに感謝して、犬の幸せを願いつつ帰った。 ※※※  私は犬が苦手だ。噛まれるのが怖い。  だけど、こうして思い出すと、きっと犬自体はそんなに嫌いではないんだろうと思う。 (了)
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