思い出の犬二篇

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 私は犬が苦手だ。噛まれるのが怖い。  けどそんな私にも、忘れられない犬はいる。 ※※※ ☆  幼稚園にも入ってない頃だろうか。  昔のことで、かなり記憶があやふやだが、この機会に書きだしてみる。  当時、海岸近くに住んでいた。海岸近くといっても、途中に池のような水たまりがあったり、クワガタがいる林があったりして、道すがらの印象ばかりが残っている。比べると海の記憶はいささか薄い。  あの犬も、その道の途中にいた。  白くて大きな犬だった。耳が立ったジョリィみたいな姿だったと思うが、私が小さかっただけで実際には普通の日本犬だったのかもしれない。  人懐こかったその犬を、近所の子供達で世話しよう、ということになり、食べ物や牛乳を運んだりした。犬も、子供達におとなしく付き合ってくれた記憶がある。誰かに捨てられた飼い犬だったのかもしれない。  だが、そんなことがいつまでも続くわけもなく。  保健所が犬を連れて行くという話を聞き、近所の子達は慌てた。慌てたが、誰もどうすることも出来なかった。誰のうちでも飼えないから、こんなことをしていたわけだし。  そして。  犬が、職員の持つ魚肉ソーセージを追いかけて、トラックに乗って行く姿を見た。  海岸へ行く道の入り口に、みんなでお墓を建てたはずだが、その後その墓にお参りをした記憶はない。  後年、親から聞いた話だと、当時あの辺りには大型の野良犬が何頭かいて危ないと言われてたらしい。子供が噛まれるとかの事件が起こらなかったのは、運が良かっただけかもしれない。  私はその犬と、あまり積極的に遊んだ記憶はない。  連れて行かれて泣いた記憶もない。  その後、犬に優しくするようになった、ということも特にない。  ただ、魚肉ソーセージを見るとあの犬を思い出す、という時期はしばらく続いた。  今も、こうしてたまに思い出す。
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