第一話 空襲

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第一話 空襲

けたたましく鳴り響く警報、怒号の如き威圧的な駆動音。空を見上げると辺り一面、鋼色(はがねいろ)に染め上げられている。 また空襲だ、毎日のように戦闘機が鉛の塊を落として行く。農村部でさえこの有様、東京はおそらくこの比ではないのだろう、、、 あれは1年前のこと。新年の訪れを待ちわびる人々を横目に突如開戦の発表が行われた。以前から諸外国との不協和は報道されていたが突然のことだった。 この有事に対して新聞各紙は第一面で大々的に報じ、またテレビ局は放送予定を大幅に変更して特別番組を編成した。 その日以来、マスメディアは毎日のように戦争報道を行い、賛否を問う討論会が放送された。また反対派の政党による街頭演説も頻繁に行われ、町中の話題はこの事で持ちきりになる。 しかし、どこか緊張感に欠けていた。いつもと変わりない日常を送り、戦争をしているという実感が人々にはなかった、他人事のように思っていたのだ。それも翌月までのこと、事態は一変する。 暦が変わると町役場に憲兵隊の駐屯所が設けられた。憲兵隊とは治安維持を目的として軍人で組織される警察のことだ。町中で軍服姿を目にするようになり、のどかだった田舎町は様変わりする。戦時中であることが一気に現実味を帯びていった。
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