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第二十一話 カメラ
河原に着くと、灯籠の準備が進められていた。
「そうやユキ、あれ出してくれへんか?」
タケシは右手の人差し指を立てて、曲げたり伸ばしたりする。ユキはすぐに理解したようだ。
「ああ、あれね」
手に提げている巾着の紐を緩めると、中からカメラを取り出した。ユキの小さな手にも収まる大きさだ。
物珍しそうに見ていることに気付いたのだろう、
「お父さんが使っていたものなの」
タケシにカメラを渡しながら言った。
「外国製やで。親父は旅行が好きやったからな」
大切に使われていたのだろう、あちこちに小傷はあるが綺麗な形を保っている。英語表記で何やら刻印がある。
「ユキ、写真撮るさけ、そこに立て」
辺りを見渡してタケシが指差したのは向日葵の花だった。どこからか種子が飛んできて自生したのだろう、大小様々な黄金色の花が広がっている。
ユキは向日葵の前に立つと正面で手を組んだ。浴衣の色とは対照的な向日葵の色彩がユキを引き立たせる。シャッターに添えられているタケシの指は軽やかに動き、カシャカシャと音を鳴らした。
「ヒロシ、お前も入れよ」
カメラから顔を離すとユキのほうを指差した。
「僕が撮るから、タケシが入れよ」
手を差し出すが拒まれ、食い下がってみたが頑なに譲らない。
「俺は、ええねん。ユキが待ってるさけ、はよ行け!」
終いには捲し立ててきた。諦めて歩いて行くと、ユキは笑顔で迎えてくれた。
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