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第二十二話 ひまわり
タケシはカメラを構えるが、すぐに顔から離す。何かを考えているようだったが、おもむろに指を伸ばすと構図を取る仕草をした。
「ヒロシ、ユキの方へ寄れ」
どうやらフレームに収まりきらないらしい。距離を詰めてユキへ寄ると、甘い香りが鼻をくすぐる。
「もうチョイ寄れ」
タケシは更に指示を出す。距離を詰めると手の甲が浴衣の袖に触れた。
「あっ」
短い声を漏らしたユキは、何だか落ち着かない様子で話しかけても返事はしどろもどろだ。タケシはカメラを構え直すが納得いかないようで首を傾げる。
「お前ら、葬式やないんやで。笑え」
にやけ顔のタケシとは対照的にユキは俯いている。夕日に照らされた水面はきらきらと輝いていた。
「急に笑えって言われても、困るよね」
ユキは俯いたままで頷く。どうしたんだろう、元気がない、歩き疲れたんだろうか。そんなことを考えていると、
「おーい、早よせえ!」
タケシはカメラを構えたまま催促してきた。ユキを見ると相変わらずだ。どうしようか迷っていると、向日葵の花が視界に入った。
「ユキちゃん、これ知ってるかい?向日葵の葉っぱはね、太陽の動きに合わせて動くんだって」
「え、、、なにそれ?」
顔を上げたユキは不思議そうな顔をした。
「太陽の光をたくさん浴びて花を大きく育てるために、太陽が東にある時は東を向いて、西に移動したら西を向くんだ」
「そうなの、すごい」
蜜柑色に染まる空を指差して説明すると、ユキは驚ろいて見せる。タケシのほうを見るとカメラを覗き込んでいた。
「僕たちと一緒だね」
「どういうことなの、ヒロシさん?」
「ユキちゃんを見ていると楽しくなる。幸せを貰ってるんだ。ユキちゃんは太陽なんだよ」
夕日に照らされているせいだろう、ユキの顔は赤く染まっていた。
「お世辞を言っても何も出ませんよ」
「いいよ、いつも貰ってるから」
「えっ、なんだろ?何かあげたかしら」
首を傾げて考えている顔を覗き込み、答え合わせをする。
「ユキちゃんの笑顔だよ」
またしてもユキは俯いてしまうが、今度はすぐに顔を上げて目を細めた。
「もう、ヒロシさんたら、、、」
溢れんばかりの満面の笑顔を見せた。
タケシは無言でシャッターを切っていた。何度も、何度も。ユキの顔は向日葵の花にも負けない最高の笑顔だった。
やがて日は暮れ、灯籠が流される。
「わあ、きれい」
灯籠に照らされた川面は燈色に揺らいでいる。ユキは手を合わせ黙祷した。亡き両親の事を思っているのだろう。僕もユキの隣で黙祷を捧げた。
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