第二十三話 罠

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第二十三話 罠

収穫した生姜の出荷準備を終え、家に戻ったのは日暮れ前だった。早速、Lucyへのコメントを書き込んでいく。その後、食事の準備をするため台所へ向かった。Lucy直伝の生姜料理を作るつもりだ。彼女は料理が得意でレシピを丁寧に教えてくれる。採れたての生姜をすりおろし、豚肉を炒めていると玄関で戸を叩く音が聞こえてきた。 誰だろう、こんな時間に。時計はもうすぐ午後8時になろうとしている。玄関の明かりを灯すと、硝子越しに薄っすらと人影が浮かんだ。 「ヒロシさん、、、」 か細い声が聞こえてきた。よく知っている声だ。引き戸を開けると想像どおりユキが立っていた。走って来たのだろうか、息を切らせて髪は乱れている。 「ヒロシさん、お兄ちゃんが、、、」 力尽きたようにその場に座り込んでしまい、目には薄っすらと涙の跡が残っている。ただ事ではない雰囲気に緊張が全身を駆け抜ける。ユキを部屋に通すとコーヒーの用意をした。 どれ位の時間が経ったのだろう、グラスの縁には透明の雫が流れ出していた。落ち着きを取り戻したようで、ユキは少しずつ話し始める。 彼女の話によると、憲兵隊を名乗る男達にタケシは連れて行かれた。罪状は国家反逆罪だと言っていたそうだ。暴動を計画して国家の転覆を企んだ罪だという事だ。よほど怖い思いをしたのだろう、ユキは声を震わせている。 あのタケシに限ってあり得ない、何かの間違いだ。詳しい事情を調べなければならない。危険が伴うことは予測できたが、憲兵隊の駐屯所に行くことにした。駐屯所は町役場にある。 「話を聞いてくるから、ユキちゃんはここで待ってて」 諭すように言うと、 「私も行く」 ユキは立ち上がり僕の目を見つめた。声は力強く、いつものユキに戻っている。 「危険な思いをするかもしれない。ユキちゃんはここに居て」 治安維持を大義名分とした、憲兵隊による傍若無人な振る舞いは話聞いて知っている。ユキを危険な目に遭わすわけにはいかない。 「ヒロシさん、私も行く」 じっと僕の目を見つめるユキの瞳には、頑な覚悟が伺える。一人で居るのも心細いだろう、置いて行くのも可哀想だ。少し迷ったが連れて行くことにした。 「分かった、一緒に行こう」 身支度を整えると、僕たちは町役場へ急いだ。
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