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第二十四話 訪問者
私は白百合さんに借りた本を読んでいた。彼女は学校のお友達で、最近都会から転校して来た人なの。
『急がないから、ゆっくり読んでね』
白百合さんはそう言ってくれたけど、長く借りているのも悪いから明日返すつもり。異世界に転生する悪役令嬢のお話ですごく面白いの。この先どうなるのかしら、ワクワクしていたわ。
「ユキ、もうすぐ出来るで」
お兄ちゃんは晩御飯の支度をしていた。台所からは煮物の良い匂いがしたわ。
「飯台拭いといてくれ」
「はーい」
本に栞を挟むと布巾を取りに台所へ向かった。お皿には焼いたお魚とお茄子の煮物が盛り付けられていたわ。
「旨そうやろ。ヒロシの茄子、使うたんや」
そう言うとお兄ちゃんはパクリとつまみ食いした。
「最高やで、ヒロシの茄子」
「もう、お行儀悪いわね!」
お皿に盛られたお茄子を見て、お兄ちゃんの気持ちが分かった。形の良いお茄子がお汁を含んでツヤツヤしている。私もつまみ食いしかったけど我慢した。ヒロシさんのお茄子はとっても立派で美味しいの。私も大好きよ。
ガシャーン!
玄関で戸の開く音が聞こえてきたのはその時。乱暴な音だったわ。驚いてお兄ちゃんを見ると、玄関のほうを睨んでいた。しばらく待ってたけど声は聞こえて来なかった。
「誰やねん!見てくるさけ飯並べといてくれ」
お兄ちゃんは大股で廊下を歩いて行ったの。いつもより足音が大きかったわ。私は言われた通り、ご飯をお盆にのせて運ぼうとしていた。その時だわ、言い争う声が聞こえてきたのは。緊張した声だった、心配になって急いで玄関に向かったの。
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