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第二十五話 招かれざる客
「なんや、お前らは?」
「憲兵隊だ!」
玄関には兵隊の格好をした男が三人いた。お兄ちゃんはサンダルを履くと、首をかしげて外に出たわ。
「お前がタケシだな?」
「そうや、けど、、、憲兵が何の用や?」
「国家反逆罪の容疑でお前を連行する」
「よし、連れて行くぞ!」
「な!、、ちょお待て!」
突然、痩せ形でスキンヘッドの男がお兄ちゃんの腕をつかんだわ。お兄ちゃんは驚いた顔で振り払おうと抵抗した。
「なんやねん!、、、反逆罪?知らんわ!」
「大人しくしろ!」
「俺、なんもしてへんやろ!」
「黙れ、抵抗するな!」
激しい押し問答の末、腕を払われた男は身体を捻らせると左足を踏み込んだ。鋭い目付きはお兄ちゃんの左の頬っぺたを狙ってたわ。
「やめて!」
私は必死に叫んだ。腕は弧を描き、褐色の標的に襲い掛かったの。でもお兄ちゃんは見えていたのね、素早く身体を屈めると拳は音を立てて空を切ったわ。
「何すんねん!危ないやないけ」
「チッ!」
男を牽制したままお兄ちゃんが叫ぶと、木刀を持った小太りで丸顔の男が私を見た。どす黒い肌が不健康さを、薄汚れた軍服からは不潔さが滲み出ていた。
お兄ちゃんは痩せ形の男を睨みつけたわ。男は舌打ちすると透かさず後ろに跳んだの。お兄ちゃんとの距離を取るためにね。顎の下で構えた拳を小刻みに動かせてリズムを刻みだしたわ。血走った目は襲い掛かるタイミングを伺っていた。
「何やねん、コイツ」
イラッとした顔で男を見ると、お兄ちゃんも拳を構えて応戦したわ。二人は睨み合ったまま動かない。いいえ、お互いを牽制して動けなかったの。
「キトウさん、自分が代わります」
その均衡はガッチリ体形の男によって破られたわ。キトウと呼ばれた男は拳を構えたままお兄ちゃんを凝視していたけど、やがて腕を下ろしたの。
「ネモト、お前に任せる」
ネモトと呼ばれた男は小さく頷くと、ボッキボッキと指を鳴らしながらお兄ちゃんの前に立ちはだかった。クセ毛髪を掻き上げると素早く拳を構え、躊躇なく襲い掛かったの。体格の割に動作が速い、お兄ちゃんは顔を傾けて交わそうとしたけど、反応が一瞬遅れて頬っぺたには一筋の赤い線が浮かんだわ。空を切った腕を素早く引くと、男はそのままの体勢で左腕を突き出した。お兄ちゃんは頬っぺたをさすっていたけど、そんなことをしてる暇なんかなかったのよ。今度は交わしきれないと思ったのね、顔の横で腕を折り曲げるのがやっとだったわ。
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