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バシィーン!
拳と腕の衝突する音が激しく響いたわ。お兄ちゃんの腕をネモトの拳が捉え、ネモトの拳はお兄ちゃんの腕に阻まれた。衝突の瞬間から二人の身体は微動だにしない。一瞬の静寂が時間を支配した後、お兄ちゃんの身体はゆっくりとよろけた。体格では負けていない、ネモトの力の方が勝っていたのね。
「お、お兄ちゃん!」
「ユキ、来るな!」
すぐに体勢を立て直したけど、しかめた顔がダメージの大きさを示していた。
お兄ちゃんと睨み合う仲間達を横目に、小太りの男が私に罵声を浴びせたのはその時よ。
「なんだ、お前は!ははーん、さてはコイツの同胞だな」
目を見開いて口元をやらしく釣り上げたわ。だいぶ前から視線は感じていた、ネットリと絡みつくような視線を送っていたわ。
「あれえ、可愛いお嬢さんだねえ。ヒッヒッヒッ、おじさんとイイことしようよ」
やらしい目つきで私の身体を舐め回すように眺めると、ゆっくり歩きだした。ズリズリと木刀を引きずり、ギラギラした目で笑ったのよ。目が合うと下品な音を立てて舌舐めずりしだしたわ。
咄嗟に後退りしたけど距離は縮まる一方、背中が壁に当たる頃には荒い鼻息が聞こえて、汗と油の混じったような酷い臭いがした。
「待て、そいつに近寄るな!」
お兄ちゃんは小太り男に気を取られて一瞬の隙ができた。ネモトはその隙を見逃さなかったのよ。右足を後ろに退げると身体を捻って一気に蹴り込んだわ。小太り男に気を取られているお兄ちゃんはそれに反応できなかった。
ドゴッ!
「ウッ、、、」
蛇のようにしなった脚はお兄ちゃんのお腹を捉えて食い込んだ。これには流石のお兄ちゃんも、たまったもんじゃない。崩れ落ちて膝を付いてしまったの。
「お、お兄ちゃん!」
「ヒヒッ、お嬢ちゃんはオジサンが可愛がってあげるからね」
「ゲホッ、ゲホッ、、、や、やめろー!」
「イヒヒッ」
小太り男はすぐ目の前まで近づいていた。お兄ちゃんはかすれ声で必死に叫んだけど、そんなことはお構いなしに、男は木刀の先端を私の胸元に突き付けた。そして力任せに引き戻したわ。
風圧を感じた瞬間、目の前を何かが飛び交い、しばらくすると足元でコロコロと音が聞こえた。床を見るとボタンが転がり、ブラウスの胸元が開けていた。
「キャッ!」
男は木刀を足元に放おるとゴツゴツした手を伸ばしてきたの。大声で叫んだつもりだけど息が詰まって声にならなかった。
「いやっ、来ないで!」
「ハァ、ハァ、、、」
壁際に追い詰められ、怖くて身動一つできなかった。逃げようとしたけど身体が動かなかったのよ。土色に変色した爪が肩に触れると、ブラウス越しに湿り気を感じ、男の体温が伝わってきた。
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