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第二話 防空壕
ウゥーッ!ウゥーーッ!
「住民の皆さんは速やかに避難して下さい。繰り返します、警報が発令されました。直ちに避難して下さい」
聞き慣れない音が辺りに響き渡る。甲高く不快な音だ。どこから鳴っているんだろう、耳を澄ますとどうやら公民館に設置されている拡声器からのようだ。不快音の合間には機械的に淡々と喋るアナウンスが流れる。
寒空のもと、僕は人々の流れに従って防空壕を目指していた。開戦報道されたのは去年の暮れで、あれから一ヶ月が過ぎようとしている。
防空壕はこの地域で唯一の学校、その裏山にある。僕の住むこの町は太平洋に面し、北は山脈に、南は海に囲まれている。農耕、漁業が盛んで言い換えればそれしかない、ごく有りふれた田舎町だ。
その昔、炭鉱によって栄えていた時期があり、国の発展の一端を担った。やがて資源が枯渇すると炭鉱は閉鎖され、その採掘跡地が防空壕として再利用されている。
防空壕に到着すると早速、周りを見渡した。見慣れた顔が揃っている。この土地で生まれ育った者がほとんどで互いによく知った仲だ。
警報は依然として鳴り続き、人々は思い思いのことを口にしている。初めての経験ゆえ、みんな戸惑っているのだろう。敵が攻めて来たのかもしれないという不安と、単なる予行演習、あるいは誤報ではないのかという余裕が交錯して半信半疑なのだ。僕自身がそうだ。
けたたましい轟音が辺りにこだましたのは間も無くのことだった。防空壕は微かに揺れ、人々のざわつきは悲鳴に変わる。大人達の緊張が伝わったのだろう、子供たちはすすり泣き、その声で壕の中は満たされた。
その音は徐々に遠ざかり、やがて鳴り止む。
何が起こっているんだろう、僕は防空壕の天井を睨んだ。
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