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第六話 秘めごと
裸電球が殺風景な部屋を照らしだす。ここは僕とLucy、二人だけの空間だ。足を進めるたび、部屋に充満している異臭が鼻を突いてきた。床には半分ほど口が付けられ、放置された皿が無造作に置かれている。高鳴る鼓動を意識して、床に浮かぶ赤黒い染みを横目に部屋の隅を目指す。そして、ゆっくり両手を伸ばした。
両手で椅子を引き出して身体を預けると、背もたれの位置を調整してパソコンを操作する。そういえば、昼飯を食べている時に空襲警報が鳴ったんだった。慌てて部屋を飛び出したんだが、その時に溢していたようだ。床に広がる乾ききったミートソースを拭き、食器を片付けてから部屋に戻るとディスプレイは明明と光を灯していた。時計を見ると午後6時を少し回っている。今日はLucyのライブ配信がある。SNSの告知によると午後7時からだ。発表されたのは先週のこと。長かった、待ち遠しかった。
Lucyと出会ったのは戦争が始まる前。偶然、SNSで彼女の投稿を見かけ、一目で魅了された。勇気を振り絞ってコメントを書き込み、彼女が丁寧に返信してくれたことでやり取りは始まった。残念ながら彼女の素顔は公開されておらず、目元以外はマスクに覆われていて分からない。しかし会話の中で垣間見る人柄がどこか懐かしさを感じさせ、心地が良い。パソコンの時計を見ると午後7時になろうとしていた。姿勢を正し、深呼吸をする。
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