ワイルド・ワン〜困り顔のペス〜

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小さく吠えて、夕陽を受けてひらりとジャンプ! 何度も見たその捕球の瞬間は、写真みたいに覚えてる。ただただ純粋にかっこいい。 手も使えないのに、なんであんなに上手なんだろうな。今でも不思議に思うよ。 犬って、いつも全力だろ? 遊ぶ時も甘える時も食べる時も落ち込む時も。 だからかわいいし、好感が持てるし、かっこいいんだと思う。 「あはは、ペス凄ーい!」 そして、そのまま走ってボールをユリちゃんにはいって渡す、そいつの名前はペス。 ボールを取る時はあんなにかっこいいのに、普段は困り顔のせいで愛嬌があってね。 多分ビーグルと何かのミックスだったと思う。当時はミックスなんて言葉は無くて、雑種犬って呼んでたんだけど。 ユリちゃんが飼ってたんじゃないよ、野良犬だ。 ぼろっちい首輪をしてて、良く人に慣れた賢いヤツでさ。どうして飼い主はあいつを捨てたのかなあ。 ボールは横取りするけど、ユリちゃんがお人形を持ってても絶対に取ったりしなかった。それがユリちゃんの大事な物だと知ってたんだな。 この子は近くに住んでたけど、小学校は違ったんだ。だから名字は知らない。 いつも俺達が遊んでるのを、ペスと一緒に眺めてたんだ。 だが、やってる事は迷惑だ。 「こらーペス!ボール返せー!」 俺達はボールがないと困る。子供だからな、野球ごっこでもこっちは真剣なのさ。 ユリちゃんがえいってボールを投げてくれるんだけど、こっちまで届かないからしょうがない。 ペスにボールを取られると、だいたいランニングホームランになってた。まあ後で「ペスヒット」って特別ルールが出来たんだが。 それでも、ペスを連れて来るななんて誰も言わなかったよ。
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