ワイルド・ワン〜困り顔のペス〜

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「もう、ケンのばかー!ヒデキの新曲だったのに」 歌を聴きたくても、レコードは高い。 だからテレビの前にラジカセを置いて、歌手が歌う時カセットテープに録音してたんだ。 当然音質は悪いし、人の声が入ったりもするけど、当時はみんながやってた画期的なアイデアだったんだぜ。 「ごめんごめん」 「ちょっと待ちなさいよ、何かの毛が付いてる。取ってあげるから」 「ああ、ペスのかな」 「ペス?」 「ほら、茶色い模様でちょっと困った顔の」 「あー、ラッシーの事ね?最近この辺でよくみかけるわ」 ペスってのもユリちゃんが付けた名前を俺達が呼んでただけだからな。飼い犬だった頃の名前は知らない。姉ちゃん達はラッシーと呼んでいたらしい。 そこへ母さんがやって来て。 「それってパトラッシュの事でしょ?」 俺と姉ちゃんが思わず口を揃える。 「「パトラッシュ?」」 いや、ラッシーもパトラッシュも白と茶色で色は合ってるんだけどな。 「あの子かわいいのよね、お利口さんだし。あの子なら飼ってもいいわ」 そして父さんが来て。 「ああ、ヨーゼフか。しかしあいつはもうデカいからなあ」 「「「ヨーゼフ?」」」 我が家はペットはいなかったけど、みんな動物好きだったからな。 で、録音停止するのを忘れて、アイドルの歌の後にやりとりが全部録音されてたりしてな。いいもんだろ? そんな感じで、野良犬だからって酷く邪険にはされてなかった。 勝手に名前を付けられたりして、市民権を得ていたんだ。ペスは大人しくて人懐っこかったから、我が家の犬になる可能性もあったんだけどさ。 そんなあいつだけど、怒った時はそりゃあ怖かった。
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