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「ウ〜〜……!」
ペスの視線の先で、例の黒い野良犬が低い唸り声を上げた。体の色のせいもあって俺達は全然気付かなかった。
ちなみにペスはいろんな名前で呼ばれてたけど、こいつはみんな揃って「クロ」と呼んでた。
とっつきにくい奴はラッシーとかパトラッシュみたいな良い名前は付けてもらえない。まあ、あいつの場合はかわいい性格でもクロと呼ばれてただろうけど。
「ペス、あっち行こう」
俺達はペスをなだめて離れさせようとしたんだけど、子供が押したくらいじゃびくともしない。
根が生えた様に、っていうけどまさにそれさ。
「…………ウウウ……!」
そして初めて聞いたペスの唸り声に、俺達は思わず飛び退いた。
ユーモラスな困り顔が、目に炎が灯って一変した。
忘れないで欲しいが、あいつらは強いんだ。
人間は飼いならして何とか従えさせてるけど、本気になったら素手じゃ敵わない。
犬だけじゃない。噓だと思うだろうが、猫だってキレたら人間なんて目じゃないんだ。
人が偉そうにペットに出来るのは、あいつらが手加減してくれているからなんだ。
飼い犬とか野良犬って言葉はさ、あまり良くない意味でも使われる。でも、そんなの間違いさ。
あいつらはみんな、誇り高き戦士なんだ。
あいつらの目が澄んで優しいのは、人が忘れてしまった大自然を映しているからさ。
厳しい自然を友として、いつも全力で生き抜いてきた生粋の勇者の末裔なんだ。
ペスが牙を剥いたのは、自分の誇りの為なのか、俺達を守ろうとしてくれたのか、それは分からない。でもその目にはもう俺達は映っていなかった。
二人の戦士に挟まれて、その迫力に俺達はもう、おろおろする事しか出来なかったよ。
その時だ。
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