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1.男に頼らない、私は女王を目指す。
「コーパイじゃなくて、おっぱい星人だから嫁の貧乳じゃ勃たないってどういうこと?」
夫は航空機の副操縦士であり、コーパイと呼ばれる。
私はCAになるのが夢で、女子大を卒業し航空会社に入社した。
内定が決まった段階で顔の広い子が集めた合コンにいたのが夫の正志だったのだ。
当時は彼もパイロットの訓練生だった。
私にとって、正志は初めての男だ。
合コンの後、彼にしつこく誘われた。
内定した会社の先輩でもある彼の誘いをどう断ったら良いかもわからず、男女の行為をして妊娠した。
CAになる訓練中に妊娠が分かった私は彼と結婚した。
訓練中から妊娠してしまった私は一度も空を飛ばないまま会社を退社したのだ。
「人のスマホ勝手にみるの普通に引くし、そもそもお前みたいな女じゃ俺と釣り合わないだろ。お前とは離婚するつもりだし、俺は自分に釣り合う女と結婚する」
私は彼と浮気相手のやり取りを見てショックを受けて問い詰めただけだった。
しかし、彼は私と既に別れる気だったらしい。
「ミライはどうするの? せっかく夢の慶明小学校にも受かったじゃない」
一人息子のミライは現在小学校1年生だ。
私は彼の義両親から散々、私の学歴では小学校受験は失敗すると嫌味を言われ続けた。
しかし、必死に受験対策に取り組んだからか、運が良かったからか合格を頂けた。
「お前が足を引っ張りながらも合格したのは、うちの実家が極太だからって分からないのかよ」
彼は小学校からエスカレーターで慶明大学に入学した。
彼の父親はパイロットだが、実家は地元に地盤のある政治家の家系だ。
私との結婚は家柄が釣り合わないと反対され、子供を堕ろすように言われた。
私はどうしてそのような人命を軽視するような最低な家に嫁いでしまったのだろうか。
そもそも訓練のストレスで生理が来ないと思っていて、妊娠に気がついた頃には中絶できない週数だった。
子供の血筋も疑われたのでDNA鑑定までさせられた。
最初から、私の人権は踏み躙られていたのだ。
他者からは羨ましがれたセレブ婚は地獄への入口だった。
彼が就職活動でパイロット候補生として航空会社に受かったのは彼の父親が大手航空会社のパイロットだからというのも大きい。
彼と結婚して分かったのは、生まれによって既に勝ち組と負け組は決まっているということだ。
私の敗因は負け組として生まれたのに、生粋の勝ち組の彼と結婚して自分も同じ勝ち組に所属したと勘違いしたことだ。
「あなたはお受験対策ほとんどしてなかったじゃない。私とミライの努力の成果よ」
「だから、小学校受験までは夫婦円満の演技をしただろ。お前みたいな低学歴の貧乳と一生俺が一緒にいる訳ないだろ。」
私は小さい頃からエスカレーターで大学まで行った彼に学歴を馬鹿にされる覚えはなかった。
彼は生まれながら持っている家のスペックで今の地位にいるだけだ。
「貧乳って、完全母乳だったんだから仕方ないでしょ」
彼は私が処女の巨乳だったことに出会った時に価値を感じたのだろう。
しかし、いくら男性経験がないからといって言いなりになった私が悪い。
デキ婚をしたことで私は親からは軽蔑され、義実家からは軽い女と見下された。
「気持ち悪いお母さんだな。ミライ、お父さんたち離婚するけどお前はお父さんに付いてくるよな」
彼の言葉に顔を上げると、真夜中に私たちの声に目覚めてしまった7歳の息子ミライが立っていた。
「母さんは、うざいから父さんについてくよ。まじ死ねばよいのに、母さんキモいよ」
ミライの言葉に私は奈落の底に落ちるような感覚を覚えた。
1年前は「お母様大好き、お母様を幸せにする」といって私の後をつきまとっていた子だ。
ミライは小学生になってから別人のように変わった。
反抗的になり、言葉も驚くほど荒くなり、私に対しては見下すような態度をとるようになった。
男の子の思春期は大変だと聞くが、この年頃もギャングエイジと呼ばれて大変らしい。
私は色々な文献を読み漁り、自分の育て方のせいでミライが変わってしまったのではないと自分を慰めた。
「そうか。ミライが幸せなら私はそれでいいよ」
私はそれ以上そこにいられなかった。
大声で泣き叫んでしまいたかった。
夫のためどれだけ尽くしても、彼から愛されることはなかった。
結婚前、きっと彼にとっては遊びのように抱かれ妊娠した。
それ以降一度も私は彼に抱かれていない。
ミライが生まれてからは、必死に彼の将来のためになるよう彼を厳しく育てた。
だから、彼に嫌われてしまったのだろうか。
旦那の浮気に気がついてから、私はろくに眠れない。
精神科に行って、睡眠薬を処方してもらう勇気もない。
「風邪薬って眠気を誘ってくれるのよね」
私は風邪薬の瓶を空にするほど飲み干した。
♢♢♢
「ミランダ王女、今日はレオハード帝国のラキアス皇子殿下との正式婚約ですね」
鏡の前で髪の手入れをされていた私は7歳くらいだろうか。
ピンク色の髪に空色の瞳をした可愛らしい少女が鏡に映っている。
まさか、風邪薬の大量摂取で死亡し異世界転生したのだろうか。
それは絶対に嫌だった。
夫に離婚を切り出され、子供に死ねと言われたショックで衝動的にしてしまった自分の行動を悔いた。
いくら反抗的でもミライを置いて死んでしまうなんて絶対嫌だ。
万が一異世界転生したとしても、もう私は男に振り回される人生だけはゴメンだ。
「婚約はしません。私は王女ですよね。女王になることを目指します」
私がメイドのまとめてくれた髪を振り解くと、メイドは目を丸くして私を見た。
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