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10.なんだか忘れられない口づけをした。
「エイダン卿、今度王宮の近衛騎士を選ぶ選抜試験があります。選抜試験があることをミラリネの方々に伝えて頂けないでしょうか?ミラリネの力を今ミラ国は必要としております」
私は騎士の宿舎のエイダン卿の部屋まで出向いて、彼に力を借りたい旨を伝えた。
彼は現在15歳で、14歳という最年少でミラ国の正式な騎士として任命されている。
彼にはそれ程の実力があるということだ。
私は彼に実力のある同胞をスカウトしてきて欲しいと考えている。
ミラリネに対して、散々、不遇な扱いをしてきて今更なんだと言われても仕方がないだろう。
「王女様はいったいなに何を企んでいるのですか?ミラリネを散々迫害してきたミラ王家の人間が今更危機に瀕したからって助けを乞うているのですか?」
彼の反応は予想はしていた中でも悪いものだった。
私の来訪も発言も不快そうにしていて、その不快な気持ちを隠そうともしない。
「この国の騎士たちには危機感が足りません。エイダン卿は、今、国が危機的状況だと感じているのですよね。だから、迫害されていると分かっていてもミラ国の騎士として戦うことを選んでくれたのでしょ」
私の言葉の何かが彼にとって許せなかったのだろう。
彼は突然、私を壁に押しつけて責めるように訴えてきた。
「貧弱なミラ国の騎士たちでは、国を守れないからです。偉そうにして本当に何もできやしないではないですか」
非常に失礼な言葉だが、紛れもなく本音だろう。
私に本音をぶつけてくる彼に私はより信頼感を強めた。
「何もできないことにも気がついていない人間が多いのが、今のミラ国の状況なのです。皆の心を変えていかなければなりません。ミラリネの方々に選抜試験に来るよう声をかけてくださいませんか?そして、エイダン卿、あなたは私の専属護衛騎士になってください。私はあなたを信用しています」
国王陛下から専属護衛騎士を選ぶように言われていた。
彼は私に対して自分の心情を正直に話してくれる上に、腕の立つから現状一番信用できる。
「はあ、俺が王女様の専属護衛騎士なんて周りが認めないでしょう」
「周りは関係ありません。私があなたを信用して、あなたに守って欲しいと思っているだけです」
私が自然と発した言葉は紛れもなく私の本音だった。
「王女様は何を企んでいるのですか? 俺に惚れている訳でもないですよね。王女様は帝国の皇子様と可愛らしい恋を育んでましたね。まあ、あれも目的を達成するための王女様の演技ですか? 今度はミラリネの武力や俺の力に頼って、俺に恋をしているふりでもするのですか?」
私はエイダン卿の言葉に驚いてしまった。
ミランダ王女とラキアス皇子の恋物語は彼まで知るところだったのだ。
そして、ミランダがその恋を国のために演出したものだと彼までもが思っている。
ラキアス皇子は一目惚れしてもおかしくないくらいの美少年だ。
しかし、彼の帝国の皇子という彼の立場からか、ミランダが近づくとそれは戦略と取られるということだ。
「ミランダ・ミラは凄いですね。国を守るためにそこまでするのですか。そして、そこまでする7歳の女の子を当たり前と思っている人間たちがとことん気持ち悪いです。エイダン卿は私が恋をしているふりをしたら、私の言うことを聞いてくれますか?」
私は思わず体の主であるミランダを誉めていた。
私の言葉にエイダン卿は冷めたような視線を向けてくる。
目の前の生意気な思春期の男の子も、大人達もミランダは国のためなら何でもすると思っている。
そして、自分たちはふんぞり返ってそんな7歳の子に甘えているではないか。
ミランダは必死な自分を嘲笑う、周りの態度に苛立ったりしなかったのだろうか。
きっと苛立たつ日があっても、国を守るために自分は尽くしてきたのが彼女なのだろう。
「良いですよ。では、あなたのいう通りにしましょう。俺を犬だと思っておらず、人間として思っている証拠に口づけをしてください。そうすれば、ミラリネの人間に声もかけますし、あなたの護衛騎士として全力を尽くしましょう。そのようなことできないでしょ、分かったらもう良いですか?」
エイダンは私を部屋から追い出そうと扉のノブに手を掛けようとした。
私は彼の手を制して彼の頰を両手で包み、つま先立ちをして唇の端あたりに触れるか触れないかぐらいの口づけをした。
「約束ですよ。私のため、ミラ国のために尽くしてくださいね」
元の世界でキスを経験したから、これはファーストキスではない。
しかし、まるで初めてキスするように私の胸は高鳴っていた。
「大した人ですね。ミランダ王女」
7歳の王女に口づけを要求する彼のほうがよっぽど大した男だ。
私は、なんだか忘れられない口づけをしたような不思議な気分になった。
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