11.私のどこが好きなのですか?

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11.私のどこが好きなのですか?

 エイダンを護衛騎士にしてから3ヶ月がたった。  まだ、元の世界に戻れないということは私は一生こちらの世界で暮らす覚悟もしなくてはならないのだろうか。  帝国からラキアス皇子が来訪してきて、応接室で私は彼とお茶をした。  ラキアス皇子は将来を約束された皇子なのだろう。  彼に随行してくる帝国の護衛騎士の人数が大名行列のようだ。  このような大掛かりな移動を計画するのは大変だろうに、前回は追い返すような真似をして申し訳なかった。  以前と違うのは私の後ろに、私の護衛騎士のエイダン卿が常に立っていることくらいだろうか。 「ミランダ王女殿下、父上も、母上も忙しくてなかなか時間が作れないのです。今日は婚約をしにきたのではなく、ただあなたに会いにきました」  ラキアス皇子が下がり眉で言った言葉に申し訳なくなった。  彼は往復1ヶ月かけてミランダに会いにきていたのだ。  前回、婚約しに出向いてきた時、短時間で追い返してしまったのは可哀想だったかもしれない。  皇帝陛下と皇后陛下がこちらに来るにも往復1ヶ月かかるのだから、そのような長期間、帝国を不在にはできないのだろう。 「いえ、ご両親がお忙しいのだから仕方がないと思います。ラキアス皇子殿下、遠路はるばるミラ国まで足を運んで頂きありがとうございます。せっかくなので、1泊ぐらいして行きませんか?」  ちょうど、明日は近衛騎士の選抜会がある。  エイダン卿の声かけのお陰で多数のミラリネが受けに来るのだ。  その強さを彼が見てくれれば、帝国にミラ国が強い騎士団を作ろうとしていることが伝わるだろう。 「良いのですか? 僕は少しでもミランダ王女と一緒にいられるのなら嬉しいです」  頬を染め少し微笑むラキアス皇子の顔には他意がない。  本当に彼は大切育てられたのだろう。  皇族としては純粋すぎる気さえする。  私は頭の方に視線を感じて、視線の先を見るとエイダン卿が睨みつけてきていた。  エイダン卿も純粋な人で自分に正直だと思う。  彼は迫害されたことに傷つきながらも、国を守りたいと思っている人だ。  そのような彼から見て、平和に恋だけしていることを許されるラキアス皇子はどう映るのだろう。 「ラキアス皇子殿下は私のどこが好きなのですか?」  私の言葉に明らかに照れ出す彼は可愛らしい。  私はふと元の世界の息子のミライを思い出した。  彼もラキアス皇子と同じ7歳だ。  ミライが女の子の前で照れたりする姿は全く想像できなかった。  想像できるミライの顔は学校のトイレから出てきて絶望した顔と、私に「うざい死ね」と言った歪んだ彼の顔だ。 「目がぱっちりしてキラキラしているところと、ふわふわしたピンク色の髪が可愛いところが好きです。ミランダ王女は僕のどういうところを好きになってくれたのですか?」  ラキアス皇子は正直すぎないだろうか。  私が子供の心を持っていたら、外見だけを誉められて嬉しくなっただろう。  でも、今の私は外見など年を取ればいくらでも変化することを知っている。  夫にも胸がなくなったから、興味がなくなったように言われたではないか。  だから好きなところが外見だと言われると、その「好き」はいつかなくなるものだと感じてしまうのだ。 「見た目も、もちろん素敵だと思いますよ。銀髪はキラキラして綺麗だし、紫色の瞳も澄んでいます。でも、私があなたを一番好きなのは正直なところでしょうか。私のことを好きなのは外見だけなのですか? そのようなことを言っていたら女の子は喜びませんよ」  私はラキアス皇子に正直な気持ちを伝えた。  彼が嘘偽りない純粋な人だからだろうか、彼に向かい合うと鏡のように彼の真似をして嘘をつきたくなくなる。 「ミランダ王女、僕はもちろん君の中身も好きです。君が国のためを考えているところとか尊敬しています」  ラキアス皇子が弁明するように言った言葉に私は引っかかりを覚えた。 「ラキアス皇子殿下は私がミラ国の為にあなたに近づいたとは思われないのですか?」  私の言葉にラキアス皇子が優しく微笑んだ。  その笑顔があまりに綺麗で、私は心臓が一瞬止まったような感覚を覚えた。 「何の企みもなく僕に近づいてくる人なんて、この世界には存在しません。どのようなきっかけで君が僕に近づいて来たとしても、僕が君を好きだからそれで良いのです」  私の手に手を重ねながら言った彼の言葉に胸が締め付けられた。  彼はミランダの思惑を知った上で、彼女を受け入れていたのだ。 「私もラキアスが好きです。私のことはミランダと呼んでくれますか?」  私は彼と距離を縮めたくなり、思わず彼を名前で呼んだ。  ラキアスに対する気持ちは恋心ではないけれど、彼を好きだと思う気持ちは本物だ。  彼といると彼の優しさに癒されたくて、好意に甘えてしまいたくなる。  この体の主、ミランダ・ミラもきっと同じ気持ちになったのだろう。
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