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2.男に紐づいた生き方をしたくない。
「ラキアス皇子殿下、申し訳ございませんが婚約は致しかねます」
「ミランダ、どうしたんだ。お前自身がラキアス皇子と婚約したいと言ったではないか。わざわざ、帝国から皇子殿下がいらっしゃってくれたのだぞ」
ピンク髪に空色の瞳をした、ミランダの父親であろう国王陛下が訝しげに言った。
彼の話ぶりから、帝国と我が国では力の差がありそうだ。
前世でも夫の家は名家で私の家は田舎の母子家庭で家の格に差があり、散々馬鹿にされ夫の家は私の家を蔑ろにしていた。
「皇子殿下と結婚した場合、私は帝国にお嫁に行くことになりますよね?」
突然転生したので、自分が王女ということしか分からない。
でも、相手が帝国の皇子であるのなら私が嫁に行く側だろう。
「ミランダ王女、帝国に来るのに何か不安がありますか?」
銀髪に紫色の瞳をした優しそうなラキアス皇子が口を開いた。
「あります。今日は正式婚約とのことですが、ご両親は来られてないのですね。殿下は将来飼う犬を選びに来たような気分で来られてますか?」
こちらは国王陛下がいるというのに、相手側は子供である皇子殿下に護衛と付き人がついているだけだ。
「皇帝陛下も、皇后陛下もお忙しいのです。僕は7歳ですが帝国の皇子です。正式な婚約は僕がいれば十分できます」
この婚約は対等ではない。
相手がこちらを軽んじているのであれば、絶対に婚約は結ぶべきではない。
私が妊娠した時も夫の実家はあばずれの嫁とその子供には用はないと言って冷たくしてきた。
夫は庇ってくれるわけでもなく、私が責められるのを当然のように見ていた。
夫の実家のミライへの態度が好転したのは、彼が慶明小学校に合格したからだ。
「ラキアス皇子殿下、ご足労頂き申し訳ございませんでした。どうぞお帰りください。私はこの国で女王になるつもりです。帝国に嫁ぐつもりはございません」
「ミランダ、次期国王は弟のキースだ」
私は王女なのだから、女王になる資格があるはずだ。
この国は男であることが、長子であることより優先されるということだ。
「ミラ国王陛下、昨年の王妃様の件は誠に残念でした。王妃様の忘形見であるキース様が国王になる際には、僕もミランダ王女と彼を支えたいと思います」
ラキアス皇子の言葉に私は一瞬心臓が止まった。
中世ヨーロッパのようなこの世界では出産は命懸けだということだ。
私もミライを出産する時、死ぬほど痛かったが死にはしなかった。
「2度とそのようなことを言わないでください。お母様を失ったこととキースを紐付けないでください。一生キースにお母様の死を背負わすつもりですか?」
母親の死を背負って幼い子が生きるなんて想像もしたくない。
「そのような意味で言ったわけではございません。不快にさせたのであれば申し訳ございません」
帝国の皇子というからもっと偉そうでも良いのに、ラキアス皇子は謙虚に謝ってきた。
「いえ、私の言い方が悪かった気がします。ただ、キースの存在だけを愛して欲しいだけです。まだ幼い子が期待を背負って生きる重圧を味合わせたくないのです」
私はミライに過剰な期待を背負わせていた。
彼を名門小学校に入学させたかったのは、彼のためではなく自分のためでもあった。
ミライがただ生まれてきたことだけに感謝すればよいものを、彼の存在が自分の人生を好転させてくれることを期待し続けた。
「ミランダ、お前の言う通りだ。余はキースを見るたび、王妃を思い出していた」
急に頭を抱えながら苦しそうに話す国王陛下を見て、彼が王妃様を愛していたのだと感じた。
死しても、なお愛される彼女を羨ましく思ってしまう。
「ミランダ王女、あなたは正しいです。そして、あなたに婚約することを軽く捉えていたと誤解されても仕方がない軽装で王宮を尋ねてしまったことを謝罪させてください。また、ミラ国に来ます。あなたにもう一度、僕と結婚したいと思って欲しいのです。それから、ご存知でしょうが僕には兄弟が4人います。僕が皇帝になる必要はありません。ミランダ王女が女王に即位した際には僕がミラ国に婿入りします」
ふわっと微笑んで軽く会釈すると、お付きと護衛を連れてラキアス皇子は去っていった。
「ミランダ、女王になりたいとは本気なのか?私はラキアス皇子は皇帝になるのではないかと考えている。ミラ国の女王よりも帝国の皇后になる方がずっと良いだろう」
ミラ国は王宮もさほど豪華には見えないから小国なのかもしれない。
だから、国王陛下にとっては帝国に娘を嫁がせる方が、娘も贅沢な生活ができて良いとでも考えているのだろう。
しかし、いつなくなるかも分からない夫の愛に縋りながらする贅沢な生活は空虚なものだ。
「私は男に紐づいた生き方をしたくないのです。私はミラ国の女王になります。キースと王位を争わせてください」
私は自分の本気が伝わるよう国王陛下に強い口調で言った。
「一晩でまるで別人になったなミランダ。まだ、7歳とは思えない顔つきをしている。良いだろう、キースと資質を競いより優秀な方に王位を継承させる」
国王陛下は私の本気を受け取ってくれたようで、私は人生ではじめての本気中の本気を出す決意をした。
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