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26.約束を守る彼女が好き。(ラキアス視点)
「ラキアス、今日はステラ・カルマン公女をダンスに誘って差し上げなさい。彼女はずっとあなたに好意を寄せているのですよ。あのような良い子をいつも避けているのはなぜなのですか?もう、ミラ国のミランダ女王陛下のことは忘れなさい。あなたはレオハード帝国の皇帝になるのだから、彼女とは別の道を進むことになるのですよ」
皇后陛下に呼ばれると、また小言を言われた。
「スコットが皇位につきたがっています。僕は彼が皇帝になれば良いと思いますよ」
「皇帝を選ぶのはステラです。ステラがあなたが良いと言っているのです。それに、皇帝陛下も自分にそっくりなあなたに皇位を継がせたいと思っています」
母上はカルマン公爵家の出の人間だ。
公爵家の紫色の瞳の女性は、なぜか自分が皇帝を選ぶ権利を持っていると思っている。
皇族が紫色の瞳の子が欲しいことがわかっているからだ。
僕はステラが僕とスコットをドレスでも選ぶかのように見比べていた時、彼女を好きにならないと確信した。
「母上は不貞などしていないのに、父上が僕だけを自分の子のように接しているのを見て怒らないのですか? スコットは確実に母上や父上の自分への接し方に傷ついています」
父上は自分が6人の妻に2人の情婦を抱えているからだろうか。
自分と同じ紫色の瞳をしているにもかかわらず、スコットのことを母上の不義の子ではないかと疑っている。
スコットは顔立ちも髪色も父上に似ていないからだ。
僕から見て母上は不貞をするような女性ではない。
着飾っているのは父上の為なのに、父上はそれを男の気を引く為だと言っていた。
母上が、着飾らなければそれはそれで不満を言うのだろう。
「スコットの気持ちなど、皇帝陛下のお心に比べればどうでも良いことです。皇帝陛下が何の憂いもなく皇帝に指名できるあなたがいるのだから、スコットのことは気にすることはありません」
兄弟間で差別されていることで、スコットはいつも僕に敵対心を持っている。
紫色の瞳をしていない兄弟は、皆、次期皇帝を望まれる僕を羨んでいるが僕のどこが羨ましいのだろう。
「はあ、今日はやっとミランダに会える」
建国祭も最終日だ。
ミラ国ではミランダが女王に即位したらしい。
即位式の日程から、建国祭に来る約束は反故にされるかと思っていた。
しかし、彼女は建国祭の最終日には間に合うように行くと手紙をくれた。
僕は、国家間でさえ約束が守られないのを見て来てうんざりしていた。
彼女との約束は約束として機能するしっかりしたものだ。
「ラキアス皇子殿下、今日は舞踏会の入場でステラ・カルマン公女をエスコートするようにと皇帝陛下からのご命令です」
ミランダのことを考えて幸せな気分になっていたのに、思わぬところで邪魔が入った。
♢♢♢
「ラキアス皇子殿下にステラ・カルマンがお目に掛かります」
茶髪に紫色の瞳をした彼女は、綺麗に着飾って瞳の色に合わせた薄紫色のドレスを着ていた。
「今日もお美しいですね。ステラ・カルマン公女」
女性に接する時のマナーとしてステラを褒めると彼女は頰を赤く染めた。
ステラは取り巻きにいつも囲まれていて、とても横柄な態度でいつも人に接している。
それなのに僕の前だといじらしく大人しい女の子のようになってしまうから不思議な人だ。
「ありがとうございます。ラキアス皇子殿下はいつもお美しいです」
彼女はいつも堂々としているのに、僕の前では緊張しているように見える。
「カルマン公女、どうやらあなたに選ばれてしまうと僕は皇帝にならなければならないみたいなのです。僕は皇帝になりたくないので、スコットを選んでは頂けませんか?」
もう本人に直談判するしかないと思い、意を決して言ってみた。
「私はラキアス皇子殿下が良いのです」
彼女が救いを求めるような目で僕に言って来るので戸惑ってしまう。
「僕のどこが良いのですか?」
「銀髪がキラキラしてて、紫色の瞳もキラキラしていて美しいところです」
僕は10年前ミランダの見た目だけを褒めて好きだと言ってしまったことを思い出した。
確かに見た目だけを褒められると微妙な気持ちになるが、なんだか正直な気持ちを話されている気にもなる。
「キラキラが好きなんですね。外見だけで中身については何もないのですか?」
僕はよく見た目の美しさを褒められるが、中身は褒めてはもらえないのだろうか。
「ミラ国のミランダ女王陛下のことをずっと想われていますよね。一途なところが好きです。たった1人の女性を愛せる男性がこの世に存在したのだと感動しました」
ステラは僕と結婚したいと言っているのに、僕が他の女性を想ってても良いのだろうか。
確かに彼女の父親も複数の妻と情婦を囲っている。
だから、妻になっても自分がたった1人の相手にならなくても良いと考えてしまっているのかもしれない。
「カルマン公女、帝国は一夫多妻制ですが、僕は1人の妻しかとりません。そして、その1人とだけ見つめあって過ごしていきたいです。僕は実は1人が一番好きなので、極力相手にする女性は減らしたいのです」
僕が皇族とは思えない内向的な性格を告白したら、なぜか彼女は嬉しそうにした。
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