27.みんなやっぱり嘘つきだ。(ラキアス視点)

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27.みんなやっぱり嘘つきだ。(ラキアス視点)

「ラキアス皇子殿下とステラ・カルマン公爵令嬢のおなーり」  僕がステラを伴って舞踏会会場に着くとすぐにミランダが目に入った。  2年も会えていない、彼女は会場の中ですぐ目につくほど美しくなっていた。  ピンク色のふわふわの髪に触れて、その空色の瞳に僕を映してほしいという衝動に駆られた。 「ステラ・カルマン公女、あなたと踊る幸運を僕にいただけませんか?」  僕は曲が始まりそうだと思い、マナーとして一緒に入場したステラにダンスを申し込んだ。  ステラは嬉しそうのに僕の手をとる。  彼女が僕のことを好きでいてくれるのは明白だ。  でも、僕の好きな人は11年前からミランダだけだ。  最初は彼女の可愛らしい見た目に惹かれただけだったのに、誰とも違う感性に驚きながらどんどん彼女に夢中になった。 「ラキアス皇子殿下、ミランダ女王陛下は護衛騎士と踊るのですね。殿下はそういった方がお好きなのですか?」  ステラが僕を伺うように聞いてくる。  ちらっと見たら、護衛騎士のエイダンとミランダは踊っていた。  ミランダはいつも一緒にいる彼と僕より心の距離が近い。 「そういった方とはどういう意味でしょうか。カルマン公女、あなたは自分を貫いてください。僕たちには自由がありません。紫色の瞳を持って生まれただけで、あなたは僕かスコットのどちらかを愛さないといけないと思っていませんか?」  ステラが僕のことを好きなことは明白で、だからと言って僕の好きなタイプに彼女が合わせようとするのは嫌だった。  ただでさえ、紫色の瞳に生まれた僕と彼女は制約が多い。  きっと彼女は皇族の紫色の瞳を持った僕かスコットと結婚するように言われてきているのだろう。 「ラキアス皇子殿下、勘違いしないでください。私はどれだけ選択肢があったとしても殿下を選んでいます」  彼女の言葉は僕を喜ばすものではなかった。  彼女は自分に選択肢があると言っているようなものだ。  なんだか気分がとっても悪くなって、ミランダに無性に話したくなった。 「いい時間でした。カルマン公女」  僕は思ってもない言葉を発すると、ミランダにダンスを申し込みに行った。 「ミランダ女王陛下、僕にあなたと踊れる時間をくださいますか?」  気がつけば彼女の前に愛を乞うように跪いていた。  周りの視線を感じたがそのようなものは関係ない。  彼女がミラ国の女王になった以上、僕と彼女は永遠に結ばれない。  どんなに羨まれる生まれでも、僕自身が一番僕の生まれが嫌いだ。  紫色の瞳を持って生まれたが為に、好きな人を追いかけることもできない。  僕は一生帝国という檻に入れられたカゴの中の鳥と同じだ。 「ラキアス、本当に美しくなりましたね。あなたに恋をしない女の子はいませんよ」  僕に見惚れるように言ってくれるミランダの言葉を素直に受け取れない。  見惚れてくれも、ミランダは僕を好きにならなかった。  どうしたら彼女の心を得られるのか、僕は11年間全くわからなかった。 「ミランダ、僕に少しはときめいてくれたりしましたか? 好きな人に好きと言われないなら、豚のような見た目でよかったです」  僕が自虐的なことを言うと、ミランダは僕を心底心配そうに見つめてきた。  彼女の人の気持ちを察しようとする母なる海のような優しさが好きだ。  羨みや妬みだけをむけてくる他の人間とは全く違う。  僕が何悩み、何を考えいるかに思いを寄せてくれたのは彼女だけだ。  その事実に気がついてしまうと、僕の心はどんどん彼女から離れられなくなっていった。 「ときめいていますよ。そしてあなたのような方から想われたことは私の誇りです」  僕の彼女への想いを誇りだなんて思ってほしいわけではない。  ただ、ステラが僕を想うように馬鹿みたいにミランダに夢中になって欲しいだけだ。 「ミランダ、僕が皇帝になったら、絶対にミラ国を攻めません。だから安心してください。困ったことがあればなんでも言ってください。一生に一度の恋をさせて頂きありがとうございました」  ミランダだけに聞こえるように言った、僕の言葉に申し訳なさそうにミランダが会釈した。  みんなやっぱり嘘つきだ。  母上は僕が欲しいものはなんでも手に入ると言ったのに、ミランダは手に入らない。  ミランダは僕に恋をしない女の子はいないと言ったのに、自分は僕に恋に落ちなかった。  でも、僕が皇帝にならないとスコットが皇帝になる。  スコットは帝国の領土を広げたいと思っているから、ミラ国は必ず標的になる。  だから、僕は愛する人の守りたいものを守るため皇帝になる。  そう、自分に言い聞かせた。 ♢♢♢ 「ラキアス皇子殿下、花火が始まりますよ。バルコニーに出てご一緒に見ませんか?」  ミランダとの最初で最後のダンスの余韻に浸っているとステラが声を掛けてきた。 「いきましょうか、花火は一年に一度しか見られませんしね」  ステラをエスコートしながら、横目にミランダを見る。  ミランダは護衛騎士のエイダンと会話をしていた。  僕にとって10年前怪我をしてミラ国に滞在した時間が人生で一番幸せな時間だった。  好きな子が自分の側にいて、僕のことを心配してくれる夢のような時間だ。  僕はどうしてこんなにも決して一緒になれないミランダを愛してしまったのだろう。  隣にいる僕のことを好きで仕方がない女の子を好きになってたら楽だったのに。 「ラキアス皇子殿下、花火は紫色が一番出すのが難しいそうです。私はでもその紫色が一番好きです。皇子殿下の瞳の色だからです」  まるでとうとう伝えてしまった告白を伝えたかのように、ステラが震える声で言ってくる。 「僕は自分の瞳の色が嫌いです。瞳の色が紫でなければ、もっと自由なのにといつも思っています。僕が皇帝になったら真っ先に紫色の瞳が皇族の血が濃いだなんて根拠のない迷信だと宣言します。カルマン公女、あなたもこの瞳の色の足枷をかけられてきたでしょう」 「お互いの瞳の色を好きだと伝え合う愛の告白方法を童話で読んで、ラキアス皇子殿下とやりたかったのです。私は紫色の瞳でよかったと思っています。この瞳の色だったからこそ、殿下を私のものにできるのですよね」  僕はステラが泣きそうな顔で、僕に伝えてきた言葉を聞いて反省した。  彼女はただ僕を好きだと、それだけを伝えてきている。  それなのに僕は彼女を見ようとせず、酷い言葉を浴びせてしまった気がする。 「カルマン公女は童話などを読むのですか? 今度、話を聞かせてください。僕たちにはこれからたくさん時間があるのですから」  僕の言葉にステラの顔が安堵の表情に変わった。  一生に一度の恋をミランダにした。  もう、それで満足しないといけないのかもしれない。  僕にひたすらに好きだと伝えてくる、不思議な女の子を愛せなくても大切にするべきだろう。
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