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4.若い子にときめいてしまった。
「唯一、挨拶をした礼儀のなっているエイダン卿を私の味方にします。2対6で戦いましょう。あなた方はエイダン卿のことが気に入らないようなので、騎士として一緒に仲良くはできなそうですね。負けた方が王宮を去るというルールで本気の試合をしますよ」
「王女殿下を攻撃することなどできません」
「これは戦争を想定した訓練です。私を敵国の王女と思いなさい。訓練をサボって集団リンチをしていたあなた達は本来なら騎士として失格です。騎士としての資質のなさをカバーするだけの実力を見せてくれたものだけは救って差し上げます。あなた達はどうして自分たちが勝てるつもりでいるのですか? リンチに夢中で私が近づいて来たことにも気がつかない愚か者ですよね」
「エイダン卿、あなたは彼らを殺す気で倒しなさい。あなたの実力を見せてください」
「王女様、こんな奴らは俺1人で十分です」
エイダン卿の黄金の瞳は自信に満ち溢れていた。
「それならば、なぜ先程はやられっぱなしだったのですか? もしかしてあなたが平民だということが関係しているのだとしたら、この国の騎士団は終わりですね。では、1人で6人倒してください。負けそうになったら、私が加勢します」
私の言葉にエイダンは微笑んだ。
その微笑みに一瞬ドキッとする。
馬鹿馬鹿しい、私は7歳の子がいる主婦なのにこのような若い子にときめいてしまった。
「では、開始」
私の声と共にエイダンは6人の騎士と戦いはじめた。
エイダン卿の木刀を振るスピードは恐ろしく早い。
風が切れるような感じがして、当たった相手の骨が折れるのがわかった。
「はい、終わり。勝敗はつきましたね。あなた方6人は今日限りで王宮を去ってください」
もう少し長く戦わせたら、エイダン卿は本当に彼らを殺してしまいそうだった。
彼ら6人は立つのもやっとなほど、フラフラで逃げるように去っていった。
「つおーい。つおーい」
天使のような可愛らしい声に振り向くと嬉しそうに手を叩きながら、キースが見ていた。
このような争いの場面を見せてしまって、教育的には良くなかった。
「キース、怖くはなかったかしら」
私が慌てて彼に駆け寄って、彼を抱き上げた。
「ミランダ王女危ないです」
キースを抱き上げた私に慌ててヴァイオレット様が言う。
私は彼の母親の感覚でキースに接してしまったが、7歳の子供が1歳の子を抱っこするのは危ないと思われて当然だ。
私はヴァイオレットにキースを引き渡した。
「また、見たい」
キースが思いの外、言葉をたくさん知っていて嬉しくなった。
私はミライには争いを含むようなテレビや絵本は見せていない。
有害と感じるものは取り除いて彼に提供していたつもりだ。
でも、今気がついた。
夫は職業上、毎日は帰ってこない。
たまに帰宅した時に私たちは喧嘩ばかりしていた。
最初は耐えるべきだと思っていたが、あまりのモラハラぶりに耐えられなく言い返した時から喧嘩に発展した。
私は夫婦喧嘩という最低の争いをミライに見せ続けていたことに気がついた。
それは「また、見たい」などと思える楽しいものではなかったはずだ。
「キース、本当は仲良しが一番良いのですよ」
私は微笑みながら彼の頭を撫でた。
「エイダン卿、騎士団で何か不便なことはありますか? あなたから意見を聞きたいのです」
隣で私とキースの様子を眺めているエイダン卿に尋ねた。
この国の騎士団の問題を洗い出そうと思ったのだ。
とにかく、女王になるには国の問題点をまずは解決していくべきだろう。
「特にミランダ王女殿下にご相談することはありません」
「先程、明らかに武器も持たずボコボコにされていたではありませんか? あなたは痛ぶられるのが趣味なのですか? それなら、先程の戦いのご褒美に私が痛ぶって差し上げますわ」
私は木刀を握りしめ、振り上げるそぶりをする。
「そのような変態趣味があるわけありませんよね。とにかく、王女殿下にできることなどありません。失礼致します」
エイダン卿はそう言い残して、騎士の宿舎の方へと去っていった。
15歳くらいに見えたし、思春期特有の反抗期だろうか。
先程、戦うよう命令をした時はイキイキしていたのに、彼は一瞬で機嫌が悪そうになった。
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