5.国のために生きる7歳の女の子

1/1
88人が本棚に入れています
本棚に追加
/32ページ

5.国のために生きる7歳の女の子

「レオハード帝国に隣接する国は独裁国家のエスパルと宗教国家のサオ国、そして、この豆粒のように小さな国がミラ国なのですね」  私の教育係だというマゼンダ子爵の話を地図を見ながら聞いている。  周辺諸国は帝国以外まともな国家が存在しない気がした。  ミラ国など、国と言って良いのかわからないほどの極小サイズだ。 「ミラ国は確かに豆粒国家ですが、我が国にはミラダイヤモンド鉱山があります。レオハード帝国に嫁がれる際には持参金にしてください」  マゼンダ子爵の言った言葉に私は驚いた。  国の根幹に関わる財産を持参しなければ、帝国には嫁げないほどミラ国は弱小国なのだ。 「私はこの国で女王になりたいのです。帝国に嫁ぐ予定はありませんわ」 「ミランダ王女、帝国に嫁ぎこの国を守る決意をなさったのは昨日のことに思いますが」 「どういうことですか? 私が帝国に嫁がないとこの国は守れないのですか?」 「ミラ国は常に侵略の危機に瀕しています。帝国に守って頂くのが最良の手段だということです。せっかく、次期皇帝になるだろう、ラキアス皇子殿下の心を掴み婚約をしたいとまで言わせたではありませんか」  私は一瞬耳を疑った。  ミランダは国のために同じ年の男の子を心を掴むような演技をしたということだろうか。  彼女はまだ7歳だ、どのような気持ちでそんなことをしたのだろうか。  でも、私はミライには幼いながらに演技を強いてきた。  小学校受験に受かるため、利発的で家族円満な家庭に育った子の演技をさせていた。  本来のミライは内向的で、家庭も円満ではない。 「兄弟が4人もいると聞いたのですが、彼が皇帝になるのですか?」 「ラキアス皇子殿下は紫色の瞳を持っていますから、皇族の血が濃いのです。皇子の中で紫色の瞳を持っているのは殿下と第5皇子だけです。お2人のどちらか一方が皇帝となるでしょう」 「同じ親から生まれたのではないのではないですか? 瞳の色に血の濃さなんて関係ないと思います」  レオハード帝国も瞳の色などと根拠のないものをする宗教国家のようではないか。  血の濃さなど兄弟では同じなのに、兄弟間で差別している。  だから、紫色の瞳のラキアス皇子からはあれほどに余裕を感じたのだろう。 「紫色の瞳というのはそれほど重要なのですか?」  私はラキアス皇子の美しい紫色の瞳を思い出しながら尋ねた。 「当然ではないですか。帝国では紫色の瞳を持った皇子は生涯安泰です。そうでない皇子は出兵させられたり散々な運命を背負いますよ」 「同じ親から生まれたのに差別されるのですか?」  私が夫とセックスレスではなく第2子をもうけていたとしても、長子ではないから義実家では差別されただろう。  ミライのこともデキ婚するような下品な女から生まれてきたと差別したのだ。  義実家は常に相手にマウントを取り差別しなければ気が済まない。  それは、義実家だけではない。  私は夫と結婚してからセレブと呼ばれる世界に足を踏み入れ、そこにいる人間の選民思想に触れてきた。  今私がいるミラ国は身分社会で私の元いた世界は人は平等というが、実際は同じようなものだ。  私は自分がこの国の王女ということで油断していたが、立場は相変わらず男に紐づかなければ生きていけないポジションのようだ。 「第3皇子と第5皇子は皇后陛下のお子様ですが、他のご兄弟は側室の子ですよ」 「一夫多妻制ってわけですね。それはレオハード帝国だけですか? すみませんお勉強の記憶が最近抜け落ちてしまっています」  私は少しでもこの世界のルールを知ろうと思った。 「しっかりもののミランダ王女らしくないですね。ちゃんとお休みくださいね。ミラ国では国王陛下が王妃様を深く愛していらしたから他の妻をとりませんでしたが、そのうち新しい女性をお迎えになりますよ。ミランダ王女のことですから、もちろんその覚悟はできてますよね」  私はこの体の主は7歳にして、母の死と新しい母を受け入れられる子だったと理解した。  そしてミランダは突然おかしな発言をしても体調のせいにできる程、普段から真面目に振る舞ってきた人物だ。  それだけではない、7歳にして自分の身を国のために差し出せる子だ。 「全くできてません。一夫一妻制の国はないのですか?」  私はミランダ王女に憑依しているだけで、亡くなった王妃様のことを知らない。  それなのにどうして継母ができることに拒否反応が出てしまうのだろう。 「世界一裕福と言われるサム国があるではないですか。あそこは女性の権利が保障されている国として他国からの優秀な女性の移民が多いですね。ミラ国からも帝国からも遠いですが、陸路ではなく海路を使えば1ヶ月で帝国まで行けます。帝国からのアクセスが良いのもあの国が発展した理由でしょうね」 「サム国のことを、まずはこの国も真似しましょう。私は7歳の男の子に媚を売る気も帝国に嫁ぐ気もありません。このミラ国を誰の助けも頼らず生きられる強い国にしたいと思っています」  レオハード帝国に紐づいてなければ生きていけないなんて耐えられない。  いつ気が変わるともわからない帝国の顔色を伺い続けるだけではないか。 「本気ですか? 一夫一妻制に変更するには貴族会議にかけなければなりません」 「私も貴族会議に出ます」 「一夫一妻制を主張しても通らないと思います。貴族会議に参加している貴族は全員男ですから」  私は彼の言葉に夫を思い出した。  男にとって女というものは、単に性欲を満たすだけの道具なのだろう。  お互いだけを見つめ合い助け合って生きていくというのは女の理想に過ぎないのだろうか。 「国の自立と発展のために周辺諸国との差別化を図り、優秀な人材の確保をするべきです。私は貴族会議で自らの意見を述べさせてもらいます」  王女という立場になり、権力を得た気になっていたが勘違いだったようだ。  でも、国であれ人であれ誰かに依存していてはダメだということだけは私の経験が物語っていた。
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!