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6.差別と迫害。
「それにしても、このような弱小国でよくここまで生き延びましたね」
レオハード帝国がミラ国を侵略しなかったのは運が良かっただけなのだろうか。
「やはり、先住民族ミラリネの存在が大きいですね。昨年、エスパルからの侵略の危機に瀕した時も彼らが暴れて追っ払ってくれましたから。でも、彼らは自分たちを迫害したミラ国民を恨んでますから、当てになりません」
ミラ国を狙っているのは帝国だけではないと言うことだ。
「彼らは身体能力が高かったりしますか? もしかして、騎士のエイダン卿は先住民族ミラリネの方だったりしますか?」
エイダンは明らかに周りと身体能力が全く違った。
木刀の一振りで骨を砕けるほどの力と、風を切るようなスピードがあった。
「そうです。彼を騎士に任命することには反発がありました。ミラリネは話が通じませんし、何を考えているかわかりませんから。騎士は貴族の令息が多いので、ちゃんとした人間としか関わりたくないという考えの方が多いです」
当たり前のようにマゼンダ子爵が先住民族ミラリネを差別しているのに気分が悪くなった。
そのような事情があって差別されるのが当たり前という認識があるから、エイダンは一方的になぶられていたのだろうか。
ふと、前世の記憶が蘇った。
小学校受験対策のお教室で保護者達は口々に言っていた。
「自分の子はちゃんとした子とだけ関わらせてあげたいから、お受験するしかないわよね。子供の環境を整えてあげるのは親として当然の義務だわ」
まるで公立の小学校は猿しかいないような口ぶりだ。
彼女達からしたら、高校まで公立で過ごした私は猿山育ちの上品な格好だけした猿だ。
私は苦笑いしながら話を聞いていた。
でも、そのように偉そう人を見下す彼らの方がおかしいと私はいつも言ってやりたかった。
「先住民族ミラリネは、私たちと同じ人間です。先程、騎士達が訓練をサボってエイダン卿を痛ぶってました。騎士達は王女の私が来てもろくに挨拶もできない無礼者でしたよ。エイダン卿だけが私に挨拶をしてきたのです。彼1人で騎士何人分もの力を持っていることを確認しました。私は彼を一方的に痛ぶっていた騎士達を王宮から追放すると伝えましたわ」
侵略の危機にあるのに、ミラ国の騎士達には危機感がない。
騎士団を強くし、他国に屈強な騎士団をミラ国が持っていることが伝われば抑止力になる。
「そのような行動をとられては、後々問題になります。騎士達はみな貴族の令息たちで、ミラリネを痛ぶってたくらいで厳しい処罰を受けるなど想像もできなかったはずです」
マゼンダ子爵はまるで、虫を痛ぶって何が悪いと言った口調で話してきた。
「マゼンダ子爵、不愉快です。私の教育係を続けたいなら、そのような差別感情は一切捨ててください。エイダン卿が私にミラリネの力を見せてくれたのは奇跡かもしれません。彼に頼んで彼の民族の仲間を騎士団引き入れてもらいましょう」
「差別をしている意識はございませんでした。ただ、野蛮な民族を騎士団に入れるのはいささかリスクが高いかと思われます」
マゼンダ子爵は本当に差別しているつもりはなかったのだろう。
前世での保護者達の中にも悪気があって、公立小学校に通う子を差別するような言葉を言っていた訳ではない方もいた。
自分が生粋のお嬢様でそういった公立小学校の子と接したことがなく、親にもずっと同じように公立小の子は不躾だと言われてきたのだろう方々だ。
でも、差別された側は傷つくのだ。
エイダンが私に冷たい態度になったのは当たり前だ。
彼らミラリネを迫害してきた親玉の王族の人間に振り撒く愛想など持ち合わせてないのだろう。
しかし私は無闇に媚びる人間より、そういう自分の感情に正直な人間の方が信用できる。
「私が騎士団の訓練場に行った時、6人の騎士達は木刀を持って丸腰のエイダン卿を痛ぶっていました。私から見れば貴族の騎士達の方が野蛮に見えました。私の見立てではエイダン卿は武器など持ってなくても彼らに勝てたと思います。しかし、彼が一方的にやられなければいけない状況が騎士団にあるのです。騎士団の中だけでも身分制度をとっぱらい完全な能力主義にするのはどうでしょうか?」
「そのようなことは不可能です。ミラ国には3つの騎士団が存在しますが、1つは王家、2つはミラ国の2大貴族がおさめています」
「このような豆粒国家で、貴族だなんだ言っていたら守れるものも守れません。屈強な騎士団を作って、この小さな家庭のような大きさの国を守るのです。国が侵略されたら、今、貴族だろうと奴隷になるかもしれませんよ。それと、ミラダイヤモンド鉱山に関してですが、採掘したダイヤモンドを帝国に輸出しましょう。先程の話だとサム国の発展は帝国との貿易のしやすさがあったからですよね。我が国は帝国の隣に位置するのですから、当然その地の利を活用するべきです」
「ミランダ王女は本当にラキアス皇子殿下との婚約話を蹴るおつもりなのですね。ミラダイヤモンド鉱山の採掘権をミランダ王女の持参金にせず、ダイヤモンドを輸出すると言うことですよね」
おそらくラキアス皇子の心を、この体の主は苦労して掴んだのかもしれない。
でも、その国の守り方は非常に不安定な守り方だ。
ラキアス皇子の心変わり次第で、どのようにもミラ国が傾いてしまう。
「マゼンダ子爵、まだそこにいたのですか? 私はラキアス皇子殿下とは婚約をしませんし、この国を守るためにない知恵を絞り続けます。ミラ国の女王になり、この国を守ります」
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