8.知らないふりをした罪。

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8.知らないふりをした罪。

「もしかして、私がラキアス皇子に嫁げばミラ国は安泰だと思ってますか? それは大きな勘違いですよ。ラキアス皇子殿下は私が初恋なんでしょうか。殿下は私が女王になったら、ミラ国に婿入りしても良いとまでおっしゃってました。失礼ですが、非常に幼い発想だと思いました。帝国では紫色の瞳は貴重とされます。皇族の血が濃いと言われる紫色の瞳を持った殿下が、他国に婿入りなど許されないでしょう。ラキアス皇子殿下の言うことは7歳の男の子が初恋に浮き足だって言っているだけことで、いつ心変わりしてもおかしくないことなのです。それに私が帝国に嫁いでも、帝国がミラ国を侵略しないという保証はどこにもありませんよ。殿下は大好きな私のことだけを側で守って、ミラ国を侵略するかも知れません」  私の言葉に一瞬にして貴族達は静まり返った。 「ミランダ王女殿下がこれ程、聡明な方だとは、まさにミラ国の宝ですね。殿下のおっしゃる通りです。帝国は過去にも王女を嫁がせた国を攻めたことがありました。騎士団に関しては王宮の近衛騎士団に限ってのことでしょうから、私は賛成致します。試験的な試みとして王女殿下の案を採用しても宜しいのではないでしょうか。王女の提案に賛成の方は挙手を願います」  ルアー公爵の言葉に周りの人間が挙手し始める。  ルアー公爵家も騎士団を持っていると聞いていたが、自分の騎士団には関係のない話だから良いとも取れる発言だ。  国王陛下が話す言葉より、周りが彼の言葉に重きをおいているような気がするのは気のせいだろうか。 「ミランダ王女殿下、満場一致で殿下の案が通りました。新生騎士団が楽しみですね」 私に微笑みながら言ってくるルアー公爵の目は笑ってないように見えた。  前世の経験上、こういった人間は要注意だ。  でも、今は通らないと思ってた案が通ったことを喜んだ方が良いだろう。 「2つ目の提案です。ミラ国を特色ある国にしたいと思います。現在、ミラ国の周辺諸国は全て一夫多妻制をとっています。私は、この国を一夫一妻制にして、周辺諸国の優秀な女性が移民してきたいと思える国にしたいと思います。世界一裕福と言われるサム国は、一夫一妻制をとることで優秀な女性を獲得することに成功しています。サム国の要職の半分は女性がついています。世界の半分は女性です。今、女性は妻になったら家を守るだけの存在になってしまっています。埋まっている優秀な人材を活用して、国を豊かにできたらと考えております」  私の発言が余程おかしかったのか、周りの貴族が嘲笑している。 「ミランダ王女殿下、女性は政治に疎く、ファッションの話ばかりしているものですよ。サム国は700年近く前から、そのような特色を出して富を築いてきたのです。アカデミーにも女性を受け入れているから、頭を使える女性が多いのでしょう。裕福な国の真似をすれば上手くいくなどとは思わない方が良いですよ」  名乗りもしない貴族の一人が私を馬鹿にするように言った言葉に不愉快になった。 「発言の前に私は名乗るように言ったはずです。その程度のこともできないあなたが王女である私を侮辱するのですね。ミラ国のアカデミーも女性を受け入れれば良いではありませんか?  政治を学ばせる機会も与えないで、ファッションの話ばかりしていると言うのはいかがなものでしょうか」 「センス伯爵、ミランダ王女に対する無礼な発言は目に余る。私の娘も可愛らしい女の子だ。娘のことも頭を使っていないと非難しているように伯爵の言葉はとれた。王女は国の為に自分の身を犠牲にしようとまでし、今は国の為に知恵を絞りこのような老齢な狐ばかりの貴族会議に出席してきた。そのような王女を尊重できないとは情けない。伯爵、君も向こう1ヶ月貴族会議には出席しなくて良い」  突然、強い口調と険しい表情で、ミラ国王陛下がセンス伯爵の退出を促した。  私は国王陛下の言葉に胸が熱くなった。  彼が実の娘に私が憑依したことに父親である陛下が気が付かないのを軽蔑していた。  しかし、彼はどのような娘の変化を受け入れられるほど、娘を尊重し深い愛情を持っているだけだ。  私はまたミライのことを思い出した。  ミライは目指していた小学校に通い始めてから豹変した。  言葉が荒くなり、常に苛立っているように見えた。  私はその原因に、本当は薄々気が付きながら、知らないふりをしていた。  ミライは学校でおそらく虐められていた。  授業参観に行った際、トイレに行く彼に複数の男の子達がニヤつきながらついていったのを私は見た。  トイレから出てきた時、男の子達は楽しそうに笑い、遅れて出てきたミライは世界の終わりを見たような絶望の表情をしていた。  私はその光景を目にしても虐めがあるのではないかと、先生にもミライにも尋ねなかった。  苦労して入った小学校で問題を起こしてはいけない、私立なのだから虐めなんてあるわけがないと自分に言い聞かせた。  子供の変化に気がついてながら、見て見ぬふりをした愚かな私をミライが拒絶するのは当たり前のことだ。
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